「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「白狐二刀流」「瞼の母」

kurawan2016-10-10

「白狐二刀流
古き良き普通の時代劇。良くも悪くもない一本。監督は加藤泰。主演は中村錦之助である。

源義経の子孫が先祖の残した財宝の場所に行くところから映画が始まる。その近くの村には、私服を肥やす悪徳商人がいて、仲間を集めて、この義経の財宝のありかを探る。一方で、ご禁制の鉄砲を大量に輸入しようとしている。

柴田錬三郎原作の娯楽時代劇で、中村錦之助が白塗りの侍になり秘剣アゲハ蝶なる剣術でチャンバラをする。

勧善懲悪で、正義が勝ってエンディングですが、物語が単純なのに整理されておらず 、空間の配置も不明瞭で、全体像が全く見えなかった。でも、当時でなら、このチャンバラを見るのが目的だったろうし、それでよかったのだろう。エンディングのあと拍手が起こった。これが映画が娯楽だった頃の古き良き劇場の姿だと思います。


瞼の母
名作中の名作らしい緩急の効いたストーリー構成と、演技合戦、シンプルながらストレートに訴えかけるドラマ性が見事な一本。監督は加藤泰。彼の代表作である。

主人公番場の忠太郎と弟分がヤクザ者相手に喧嘩をしているシーンに始まる。忠太郎は5歳の時に生き別れた母がいて、渡世人で旅を続けながら、金を貯め、母を探している。実にシンプルそのものの物語であるが、それ故に、細かい演出や描写に全てがかかると言えるほどに監督の力量が問われることになっている。

ひたすら母を探す忠太郎は、義侠心に熱く、心も優しい若者。ようやく探し当てた母親は、大棚の女主人、訪ねてきた忠太郎に、金せびりだと最初は素っ気なくするが、子供に間違い無いとなっても、間も無く嫁ぐ娘のために波風を立ててくれるなと追い返す。このクライマックス、対峙した中村錦之助木暮実千代の丁々発止のシーンがものすごい。カメラが回る、クローズアップが繰り返される、スッと引くフルショット、そして出ていった忠太郎の後を追おうとして、湯呑みを蹴飛ばしてしまい、動きが止まる、この迫真の演出は、まさに映画芸術の極みといえる、見事である。

結局、出ていった忠太郎を、戻ってきた娘や許婚と探しに行くが、忠太郎は彼らの前に姿を出さず影でそっと見送って旅立って行く。

15日間で作ったという作品ですが、全てをクライマックスに集中した演出、脚本が実に美味い。名作とはこんなタイミングで出来上がるものなのだという典型的な一本でした。見事。