「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「三つの愛」「美わしき歳月」「泉」

kurawan2017-06-29

「三つの愛」
正直、よくわからない映画だった。物語の中心は口減らしに田舎に奉公に出された郁二郎と発達障害の平太の物語、売れない画家の信之と体の弱い教師の通子の恋物語。そこに地元の八杉神父の過去の妻との別れの物語が絡むのだが、平太の父親はどうやら大学の先生らしく、自分の研究に没頭するあまり、息子平太と疎遠になって行く。

それぞれが交互に描かれるが、どこかちぐはぐで、絡んでいかないので、何をどう見ていかないといけないかわからなくて、結局、平太が死んでしまって物語は終焉する。監督は小林正樹。どこか異色な一本でした。

一人の少年平太が草原をかけているシーンから始まり、やってきた郁二郎とであう。こうして物語は幕を開け、それぞれの人々に絡んでくる話が展開する。

ひたすら繰り返すエピソードの連続で、何の進展もなく、いつの間にかラストシーンへ至って、終わってしまうのがなんとも不思議な映画である。


「美わしき歳月」
これは良かった。とにかく、松山善三の脚本が抜群にいいし、それに乗る小林正樹監督の演出も見事で、キャストも不思議な存在感でしっかりと演技を見せる。これが松竹映画の醍醐味と言わんばかりの傑作でした。最後は涙が滲んできてしまった。下手に書くと本当に薄っぺらくなるドラマなのに、どんどん物語に深みが出て、人間の心の機微がじわじわと伝わってきます。素晴らしい。

一台の車が東京の街を走っている。ふとした曲がり角で一人の老婆と接触するようになり、そのまま、老婆が指定する病院へ。そこで、自分の信念をつらぬいてやめたばかりの医師今西がでてくる。そして、老婆は、送ってくれた老人を自分の店の花屋へ連れて行く。そこにいるうのは孫の桜子で、桜子は今西と恋仲。さらに老婆の元にさりげなくお金を借りにくる今西の友人の仲尾、さらに同じ友人の袴田が登場する。この導入部の人物紹介が絶品のうまさ。

こうして物語は展開するが、ストーリーは実にシンプルで、桜子が気に入った老人は自分の息子の嫁にと思う。一方今西は秋田の伝染病の研究所へ行きたいと願っている。仲尾は未亡人の女性由美子と恋に落ち、その母親が結核なので今西に診察を頼んでいる。たまたま由美子と今西が歩いているのを見た桜子は、見合いの話に前向きに考え始めるが、それも全て勘違いだとわかりラストシーンへ。

その展開の一方で袴田が勤め先の工場の上司を傷つけ警察に逮捕されるが、示談にするため仲尾が奔走し、老人にも借り入れてうまくことが運ぶ。

秋田に出向く今西を見送りにくる袴田。そして汽車が動き出すと、躊躇していた桜子が乗っている。仲尾は走り行く汽車を陸橋から見送りエンディング。とにかく終盤の畳み掛けが抜群に上手いのです。これが手腕と言うのでしょうね。見事な作品でした。


「泉」
この作品は今ひとつ視点がぼやけていた気がします。小林正樹監督らしい男と女の物語のごとく始まりますが、都会の人間と農民の確執の問題から利潤追求の企業の話も絡んで、前半と後半がバラバラになっている気がします。

素子が川で釣りをしている男黒岩を呼びにくるところから映画がはじまる。素子は元華族の立花の秘書をしている。立花を演じるのが佐分利信で、いかにもなオープニングなのだが、この素子が、男たちをさりげなく手玉にとっているかの展開が前半を覆って行く。植物学者の幾島が主人公のようにストーリーの中心に存在し、素子との絡みがあるかに見えるのだが、それも今ひとつ固まってこない

一方で、農村の水源の問題で別荘地の住民とその分譲をした会社と地元農民との確執が展開して、しばらくして立花は別荘で自殺するが、それはどうやらプライドがなしたものであるようで、その結果、会社の社長が素子にいいより始めたり、どんどん俗っぽくなってくる。

結局このあとはストーリーが混沌としてきて、幾島は和歌山に赴任するし、別の女性が彼の周辺に現れるし、よくわからないまま、クライマックスは新しい水源が発見され、村人たちも素子らも駆け寄ってエンディング。なんなのと言うラストで締めくくる映画だった。