「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「心が叫びたがってるんだ」「ミツバチのささやき」「エル・

kurawan2017-07-24

「心が叫びたがってるんだ」
オリジナルの方のアニメ版は見ていないのですが、この実写版は予想外にものすごく良かった。役者がしっかりしてるのも理由ですが、脚本がしっかりとラストシーンに向かって書かれている。散りばめられるさりげないセリフがちゃんとラストで生きてくる。原作の味である、危うい揺れ動く人間の心の弱さと思春期のラブストーリーが見事にマッチングして、しかもラストはメッセージが迫ってくる。いい映画でした。監督は熊澤尚人です。この監督作品では「君に届け」でえらく感動したが、どうも私にあっているようです。

一人の少女成瀬順はある日お城のようなところからお父さんが出てくるところを目撃する。しかも女性と一緒に。実はそこはラブホテルで、父親は浮気をしていたのだが、そんなこととは知らない順は母に王子様の話と置き換えて言ってしまう。

それが原因で両親が離婚、順は自分の言葉が人を不幸にしているとおもい言葉をなくしてしまう。そして彼女は高校生になる。こうして物語が始まる。

言葉が話せない順は周りから変わった女の子とみられていたが、クラスメートの坂上拓実と地域ふれあい交流会の出し物の委員に選ばれ、打ち合わせているうちに歌を歌うなら喋れることに気がつく。そして、クラスからはミュージカルをすることになり、じゅんはしゅやくをりっこうほ、クラス全員一丸となって稽古を始める。

同じく委員となった石井杏奈扮する仁藤は坂上の元カノで、同じく委員となった田崎は野球部のエースだったが、自分の肘の故障で部員を甲子園に連れていけなかったことがきっかけでうらぶれていた。

順を演じた芳根京子もなかなか見事な演技を見せるが、周りの役者も芸達者を揃え、しっかりとした演出で紡いで行く青春の物語は、いたるところにさりげない甘酸っぱさを盛り込んで決して飽きさせない。しかも、しっかりとしたメッセージ性はブレないので、芯の通った作品になっています。

活動を続けるうちに順はいつの間にか坂上を好きになって行くが言葉で伝えられない。一方坂上は仁藤への思いが再燃し、本番の前日、視聴覚室で再度告白する。ところがその場を見ていた順はショックを受け、主役にもかかわらず突然歌えなくなってしまう。

そして本番、とりあえず仁藤が順の代わりを演じて舞台が始まる。坂上は順を探し回り、今は廃墟となったかつてのラブホテルで順を発見。順は喋れるようになっていたが今度は歌えなくなっていた。そして、坂上はお互いの想いを言葉にすることを提案。順は思いの丈を坂上に叫ぶ。そして舞台終盤、立ち直った順は最後の歌を歌い演目は終わる。

高校最後のイベントが終わり、委員だった四人が屋上で、心に留めていた気持ちを叫ぼうと提案。フライングした田崎は順に告白、その後全員が叫ぶが画面から声は聞こえない、エンディング。

うん、うまい。終盤、歌えなくなった順を捉えるカメラがグーンと引いて行くシーンからの
クライマックスへの畳み掛けは見事。アニメでは描けない細かい心の変化を表情で見せるという実写ならではのメリットも十分に生かしなかなかの作品に仕上がっていたと思います。いい映画に出会いました。


ミツバチのささやき
数年ぶりの再見、ビクトル・エリセ監督自らが監修したデジアルルマスター版を見る。前回もだったが、今回も現実か幻覚かわからない陶酔感のままに画面の中に引き込まれてしまいました。ただ、映像で語って行く描き方は一種の眠気を誘うことも事実です。

1940年、スペイン内戦の後、とある村に映画の巡業がやって来るところから映画が始まる
。上映されるのは「フランケンシュタイン」で物語の主人公アナはこの映画の世界と現実の世界がいつの間にか混同して行く。

たまたまアナの家の離れの納屋に一人の男が列車から飛び降りて身を潜める。何やら犯罪者風であるが、たまたま納屋に行ったアナがその男を見つけるが間も無くしてその男は父親らと銃撃戦で殺されてしまう。

それを知ったアナのショック、そして夜の森に一人で出かけたアナはそこでフランケンシュタインに出会う。行方を探す両親たちはアナを見つけ、ベッドにねかせる。

一人目を覚ましたアナはベランダの扉を開けて「友達になれは話ができるよ」とつぶやき映画は暗点エンディング。まさにファンタジーの世界である。

この独特の美学と感性は見る人を酔わせる魅力があるが、一方でかなりの芸術色がないわけでもない。とってもいい映画ですが、今回も途中眠気を催した。セリフが少ないのと、余計な説明を排除した映像のみで語って行く散文詩のような語り口に酔ってしまうのです。しかし、この完成度の素晴らしさは監督の才能によるものだと思うし、名作と呼ぶ一本であることは確かです。


「エル・スール」
一人の少女の目を通じて淡々と語られる家族の物語。劇的な物語があるわけでもないのですがどこか繊細で、不思議なくらいに切なく見えて来るのは監督の個性なのでしょうか。
ビクトル・エリセ監督が「ミツバチのささやき」の後第二作として撮った作品です。

ある朝、父の枕の下から振り子を発見した主人公エストレリャは父の死を予感する。父はその振り子で井戸を掘る場所を見つけたりすることができた。こうして物語はエストレリャの回想という形式で父の思い出を語って行く。

主に父の話ですが、その背景にさりげなく描かれる内戦の様子、時の世相を移す映画、などなどが淡々と展開して行く。

少女の目に映る様々な出来事は、繊細に語られ、詩情豊かな画面作りで描かれて行く。ただ、物語が平坦であるがゆうえに、内戦の歴史なども知らないとちょっと退屈と言えなくもない。

父に別の女性ができたのではという思いをする少女時代のエストレリャ。しかし、それは女優の名前であったりする

やがて大きく唸ったエストレリャは父とカフェで過去の話を語り合う。その後、ある朝父は全てを残して消えてしまう。父の死後、エストレリャは転地のために南へ行くことになる
それがエル・スールである。

作品自体は決して凡作ではにけれど、静かな画面をじっと見据える体調でないとちょっとしんどい一本でした。