「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ロスト・イン・パリ」「キタキツネ物語」「雨のアムステル

kurawan2017-08-21

「ロスト・イン・パリ」
宣伝を見たときは面白そうな映画だと思ったのですが、あまり笑いに繋がらなかった。物語の構成はなかなか凝っていて、ほんのしばらくの時間を三つに分けて描き、最後にまとめるあたりは楽しいのですが、現役の道化師としても有名らしいドミニク・アベル、フィオナ・ゴードン監督が作ろうとしているコメディは私には伝わらなかったです。

カナダの吹雪に立つ叔母のマーサと姪のフィオナのカットから映画が始まる。
そして、カナダに住むフィオナの元にパリに住むマーサから助けて欲しいと手紙が来る。この導入部はとっても舞台的な感じで面白い。

そしてリュックを背負い、いかにもお登りな感じのいでたちのフィオナがパリにやって来るが、住んでるはずのところにマーサはいない。その前後のカットでマーサはどこかに脱走したシーンがあり、一方パリを彷徨うフィオナはセーヌ川に落ちてしまい、リュックをなくすが、ドムという浮浪者がそれを拾うシーンもカットインされる。

やがてフィオナはようやくマーサに会うが、実はマーサはエッフェル塔に登りたかったようで、とあれよあれよと展開して、最後はマーサも亡くなりフィオナはカナダに帰ってエンディング。

リズミカルな演出と音楽に乗せていく個性的な映画ですが、このユーモアは分かりにくかった。強いて言えばサイレントコメディの世界観に似ている感じでした。


「キタキツネ物語」
蔵原惟繕監督の大ヒット動物映画ですが、ジャンルゆえ見ていなかったのですが、今回特集上映でもあるので見ることにした。

ドキュメンタリーというより動物を擬人化した家族の物語なので、普通の映画ですね。

流氷を渡ってオホーツクの砂丘にたどり着いた牡ギツネのフレッツが、地元の女狐レイラと家族を持ち五匹の子供を設ける。物語はこの五匹の子供の成長を通して、この狐の家族の物語、北海道の自然の厳しさを描いていきます。

自然を捉えたカメラが実に美しいし、四年の歳月をかけて撮った狐の姿が抜群に愛らしい。ヒットするのもうなずけます。

最後は再びフレッツは流氷に乗って去っていく。これはドラマですね。


「雨のアムステルダム
これはなんだ!という映画。どう転がるのか焦点が定まらない展開にとにかく長い。監督は蔵原惟繕

商社に努める主人公明は出張先のアムステルダムで幼馴染の涼に出会う。ところが、勤めている商社が倒産するし、涼が関わる日本レストランが何やら胡散臭いし、たまたま日本の大企業大日本商事の陰謀を知ることになり、二人は何やら巨大な物語に巻き込まれていく。

最後は二人は殺されてしまうのですが、何が何やら、津軽節は出て来る、青春メロディの旋律は流れる、しかも物語はサスペンス、そしてラブストーリー。どうしようもなかった。


「愛と死の記録」
これはなかなかの一本。真正面から被曝問題を捉え、しかも妙なお涙頂戴にせず、現実的にエンディングを迎える。こういう大人向けの映画は今時ぜっていに作れない。そして素直にラストは泣いてしまった。悲劇に対しての涙ではなく、こういう現実を経験したことへの悔しさからの涙。一昔前の映画にはこういうしっかりしたものがたくさんありました。監督は蔵原惟繕

主人公幸雄が和江にレコードの弁償代金を橋の上で渡しているという唐突なシーンから映画が始まる。二人の前を市電が走り抜ける。

幸雄は印刷会社に勤めていて、同僚のいたずらでレコード店に努める和江と知り合い交際を始める。そして二人は結婚を前提にした話になりお互いの世話になっている人にその話をするが、どこか手放しで祝ってくれない。ここで、舞台が広島で、戦後21年目という舞台設定が浮かび上がる。

この展開が見事で、そのあと、幸雄は白血病を発病し入院、和江は献身的に看病をする。幸雄は被爆者であったのだ。そして後半、幸雄は帰らぬ人になる。和江は一時悲嘆にくれるも、すぐにカットが変わると立ち直っている。しかし、映画の冒頭で彼女の家の隣に住む女性は被爆者で自殺未遂したことが思い出される。

そして友人や家族に明るく振る舞った和江は、ある日服毒自殺をし帰らぬ人となる。彼女が死んだことが載った新聞記事が映りエンディング。この畳み掛けと、ストレートに迫って来るメッセージが素晴らしい。モノクロームと姫田真佐久の見事なカメラも見応え十分。

こういう、本当に真面目に取り組んだ映画が少なくなった。これが大人の映画だと思います。