圧倒的な迫力というか、よく「息をもつかせぬサスペンスとかスペクタクル」とかいいますが、この映画は息をもつかせぬ圧倒的な映像でイエスキリストの最後を見せてくれます。
物語の序盤から、私たちはすでにキリストが生きて。そしてまもなく死んでゆくその現場に居合わせます。
目の前でキリストがむち打たれ、十字架を背負ってゴルゴダの丘に向かう姿を目撃します。
思わず目を背けてしまう釘打ちのシーン。引き裂かれる肉体に私たちの体が反応して知らず知らずに身をよじってしまいます。
画面に見入る私たちは、人間の罪とは何か?本能とはこうしたものか?人間の醜さとはこれか・・そして、キリストが背負おうとした人間の罪とは何か?すべての回答がキリストの苦悩の表情に示されていきます。
全く、ものすごいというしか表現できないような映画でした。
映画のテクニックとか画面の構成のうまさとか、そんな理屈はこの作品には意味がありません。確かに絵画的な画面になるように色調や光に工夫を凝らしたなどという解説もありますが、それは付随です。
「キリスト教がなぜ世界に広まったのかわかるような気がする」という感想を書かれている方がいましたが、まさにその通りです。
従来有ったキリスト映画の定番の奇跡のシーンなどは確かに皆無とはいいませんが、さりげなく挿入されているのです。
最後のタイトルバックでも、なかなか誰も立ち上がらない、いや立ち上がれないほどの感銘を受けてこの作品が終わります。そんな映画。すばらしい。
最後に、やはりキリスト文化のない我々としては一般教養としてのキリスト伝を、かつての名作で見ておいて予備知識にしておくことは、大切かもしれません。その方がよけいにこの映画のすごさを理解できるでしょう。