70歳を越えてなお見事な作品を発表し続けるクリント・イーストウッド。
今年のアカデミー賞で本命と噂されていた「アビエイター」を押さえて見事4部門に輝いた「ミリオンダラーベイビー」。「アビエイター」に感動した私としてはこの作品の一番の興味は「アビエイター」をしのぐほどの傑作かどうかということであった。
単純な女性ボクサーの物語にせずに、その脚本の隅々に細心の心配りと緻密な内容を盛り込んだ今回のイーストウッド作品。はっきり言って見事でした。
昨年の「ミスティックリバー」ほでではないにしろ、それぞれの心理描写は見事で、もちろんモーガン・フリーマンやヒラリー・スワンクの演技力もさることながら、細部にまで全く手を抜かないクリント・イーストウッドの演出は感嘆せざるをえませんでした。
いまや晩年になったフランキー・ダン(クリント・イーストウッド)のジムに一人の女性ボクサーマギー・フィッツジェラルド(ヒラリー・スワンク)が名トレーナー、フランキー・ダンの指導を受けるべくやってくるところから物語が始まります。
すでに31歳を越えた彼女には、夢に見るプロボクサーになる最後のチャンス。すべてをフランキー・ダンに賭けてやってきたのです。
最初は断ったものの、親友のスクラップ(モーガン・フリーマン)の力添えもあって彼女のトレーニングを引き受けることになります。
ここからしばらくはダンとマギーのトレーニングのシーン、さらにそれに続く試合のシーンが続き、観客はこのまままるでかつての「ロッキー」のような感動を呼ぶのではないかと錯覚しながらストーリーを追っていくのですが、物語はその後半3分の1にさしかかるとクリント・イーストウッドの人間ドラマの世界にいつの間にか引き込まれていくのです。
後半こそがこの作品の最大の見せ場であり、アカデミー賞を取った最愛の原因でもあるでしょう。
「ミスティック・リバー」「許されざる者」に見られる奥深い、人々の心の神髄に迫る人間ドラマこそがまさしくクリント・イーストウッドならではの世界なのです。
娘とのコミュニケーション不全に悩むダンと母親らとの関係に悩むマギー、この二人はお互いに得られないもの同士がお互いに補うかのように惹かれ、そして断ち切れることのない絆に結ばれてクライマックスを迎える。
誰もが涙し、心打たれ、生涯心に残る作品の一つになるであろう感動を得て劇場をでたのではないでしょうか?
「アビエイター」と比較してどちらというものはここに来ては存在しないのです。単に個人の好みの問題といまのアメリカのムードがこの作品にアカデミー賞をもたらしたのではないかと思います。
本当にいい映画でした。見た後にじわじわと胸が熱くなってくる作品でした。