佐藤浩市主演の二本の映画を見た。というのかたまたま見たい作品のどちらにも佐藤浩市がでていたということである。
「雪に願うこと」
久しぶりに根岸吉太郎監督作品を見ました。
東京国際映画祭で初の四冠達成で話題の傑作と言うことである。
その前評判通り、素晴らしいできばえの映画であった。
なんと言っても映画のリズムが見事である。冒頭部分のばんえい競馬のシーンから始まって見事なテンポの映像シーンがつづいていく。
東京で事業に失敗した学(伊勢谷友介)が一人の老人山崎努にあう。老人は学にばんえい競馬の説明をする。このさりげない背景説明が見事。しかも、この後、手持ちカメラの映像でばんえい競馬の厳しさを表現すると共に、静かなカメラワークで学と牧恵(吹石一恵)との心の接点を演出すると共にその接点がクライマックスに生きるように脚本に練り上げられている。この伏線の張り方の上手いこと。途中で見せる雪玉のエピソードもそうである。
また、学の心の変化をほんの一言のセリフで表現してみせるあたりも見事と言うほかない。無駄のないシーンと無駄のないセリフそして、的確なカメラワークによるストーリーテリング、人間心理の演出。もう頭が下がる思いであった。
ラストシーン、ウンリュウが優勝する姿は画面には映し出されないが、それを予感させるように伏線が張られている。「ウンリュウは平地では圧倒的に強い」という佐藤浩市のセリフである。このセリフがラストシーン、坂の障害を登り切ったところで「ウンリュウトップ!」というアナウンスで優勝を予想させるのである。
そして、学が厩舎を出ていくシーンのラスト、水たまりを飛び越えるように軽やかにでていく。吹っ切れた心を見事に描いた素晴らしいラストであった。
良い映画、秀作という言葉がぴったりの作品でした。
「陽気なギャングが地球を回す」
これはまた全く正反対のオチャラケムービーである。いきなりCGを使ったはちゃめちゃな場面から登場人物を的確に紹介し、だらけた無駄なシーンをカットした導入部のうまさ。これはまさに現代的な映画の作り方の典型である。
そして本編へと進んでいくが、冒頭部からのテンポを崩さずに徹底的にハイテンションなタッチで進んでいくあたりはこれはまた見所満点である。
特にここで書きたいのは「ウルトラQ」の「2020年の挑戦」の名シーン、夜の遊園地にメリーゴーラウンドが突然灯がともされ、観覧車に人が乗っているシーンへとつづくシーン、このシーンがそのまま模倣されている。これは知る人にはたまらない演出である。
特に重苦しくもなく、ぽんぽんと軽快なリズムでストーリーが進むので気楽に見れるのであるが、監督が目指した作品には仕上がっていないように思えてしょうがない。
目指したのはかつてのアメリカンニューシネマ的な映像表現であったように思われる。「明日に向かって撃て」や「俺たちに明日はない」的なノリである。その点を意識したラストシーンも見ると今ひとつ迫力に欠ける。軽いテンポだけでは映画は完成しないということがわかっていないのか未熟なせいなのか。
しかしながら、こうしたかつての名シーンを生かしてみようとするチャレンジ精神はアメリカ映画には今や失われてしまったバイタリティである。その点も考えると、今、日本映画はおもしろい。と思う。