「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「サラバンド」「歓喜に向かって」「夏の遊び」

サラバンド

イングマール・ベルイマン監督作品三本見た。二十年ぶりにして、遺作と自らうたって発表したのが「サラバンド」である。しかも、全編デジタルカメラ撮影と最新技術にチャレンジした作品である。
1974年の「ある結婚の風景」の続編という触れ込みであるが、特に前作を見ている必要はない。
かつて離婚した主人公マリアン(リヴ・ウルマン)が急に思い立って夫の元を訪れるところから物語ははじまる。離婚した夫婦というのが前作「ある結婚の風景」で離婚した夫婦の三十年後なのである。

冒頭、赤みがかったオレンジ色のカーテンをバックに大きなテーブルの前に写真を広げてマリアンがこちらを向いて座っている。その写真は彼女の今までの人生が撮されているものかと思うが、そのシーンをプロローグに物語は十章に分けられて語られていく。

久しぶりに訪れた夫は森の中で一人暮らし、息子の妻は既に亡く、孫のカーリンがチェロ奏者として成功するのを唯一の希望にしているような生活である。物語はこのカーリンという少女の心の葛藤と父と息子の諍いをマリアンが、傍観者のように語る形で描かれていく。

流行に毒されることもなく淡々と自分の映画を貫いていくベルイマンの姿がここにもある。遠景で全身を捕らえているかと思うと突然クローズアップで俳優の顔が画面いっぱいになる場面や、会話するかつての夫婦の切り返しのリズム感など、ベルイマン全盛期の実力は衰えることがない。

第六章で、おじいさんの家を訪ねたカーリンが二階でバッハのレコードを聴く祖父の所へ行き、その後階段を下りてきて、階段の下でしゃがみ込むくだりから、真っ白な空間で遠ざかる自分の姿を空想するシーンは圧巻である。
また、教会でマリアンが、息子に会い、その後教会でキリストの像を見ているうちに窓から光が射すシーンもさすがベルイマン

とはいえ、やはり、しんどい。見た後の充実感は名監督ならではの迫力十分であるが、テーマがテーマであり、良い映画を見た感動だけは確実に残る作品であった。

歓喜に向かってつづいてみたのが「歓喜に向かって」
オーケストラのバイオリン奏者の物語で、イングマール・ベルイマンの初期の作品である。
愛する妻が事故でなくなり、回想する場面から物語が始まると、そこはもうベルイマンの世界である。そこかしこに、彼独特のクローズアップやら、場面の半分に顔がアップになる場面。あまりにも長い長回しのシーンの連続。フルショットからクローズアップ、その合間の壮大なクラシックの曲の挿入など、これこそベルイマンの醍醐味といわざるを得ない。

妻を失い、失意の中で、幸せだった日々を思い出す。
妻との出会い、諍い、浮気、別離、再開、幸福、そして・・・回想でつづられるこの物語はまだ、ベルイマンベルイマンである直前の作品であるが、これにつづく「夏の遊び」を見るにつけ、イングマール・ベルイマンの個性を垣間見たような気がしました。

ところで、主演のマイ・ブリット・ニルソンという女優さん、本当にかわいらしいし、イングリッド・バーグマンの若い頃にそっくりである。しかも、本当にスリムでまるで針金のように華奢に見えるにもかかわらず健康的な笑顔が魅力的なのです。そんな彼女が悲劇の妻を演じるからなおさら、胸が熱くなる映画でした。

夏の遊び最後は「夏の遊び」
イングリッド・バーグマンの実力が認められ、巨匠として話題になるきっかけになった作品です。ちょうど「歓喜に向かって」の翌年の映画なので、この二本を見るとベルイマンの成長が見られるというものでした。

この「夏の遊び」は、純粋な青春映画です。
主人公のバレリーナ(これもマイ・ブリット・ニルソンが演じています)はかつて一人の青年を愛しました。それは一夏の青春の想い出なのですが、大きな舞台公演の前日に彼女に思いを寄せる伯父からその青年が残した手帳を渡され、あの一夏を思い起こすという設定で物語が始まります。

離れ島の別荘で知り合った二人。彼も彼女も本当にまだこれからで、若さがあふれています。どちらともなく惹かれ、愛し合い、幸福が永遠に続くかと思われたとたんに青年は海岸での飛び込む際の事故で大けがをしそのまま死んでしまうのです。

今となっては若い日の想い出、そして、現実に、今は別の恋人もいる彼女ですが、ふと思い出した出来事で、恋人とも喧嘩してしまいます。でもこれもまた一つの出来事と結局はハッピーエンドになります。

この「夏の遊び」は前作の「歓呼に向かって」と比べると各段に俳優さんのクローズアップのシーンや鏡を通しての会話のシーン、フルショットからのカットつなぎなどこれこそイングマール・ベルイマンと言わしめるシーンがふんだん出でてきます。この変化が本当にくっきりとしているのでこの二本を続けてみたのは本当に大正解でした。

見たのはシネヌーヴォーXという、シネヌーヴォーの二階に新設されたところなのですが、いわゆるホームシアターの親分程度の劇場で、最初入ったときは、ちょっとショックでしたが、上映が始まるとさすがに映画館でした。運営されている景山さんのこだわりはしっかりと出ていてよかったです