「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「象の背中」

象の背中

今井美樹が大好きだった私、かつて「想い出にかわるまで」というトレンディドラマの名作に主演した頃より彼女に惹かれ、さらに彼女の透き通るような歌声にすっかりファンになってしまった。

久しく、ドラマから遠ざかっていたが、久しぶりの出演はなんと役所広司さんのお相手役の本当にしとやかな妻の役柄、しかも主人公は余命三ヶ月を申告された薄幸のガン患者。

非常にまじめな映画でした。ガンを宣告され余命を告げられ、残る人生をどう生きようかと迷い、苦しむ姿を役所広司さんは見事に演じています。
物語をみると、黒澤明監督の名作「生きる」を思い出しますが、はっきり言って、さすがに博が違う。

長くて六ヶ月と申告される診察室の場面に始まり、かつての知人に別れを告げるべく何人かに会おうとする。
初恋の人、けんか別れした親友、仕事で会社を倒産させた社長などなど。前半は自分の長男にしか真相を告げずに、ひたすら隠して、知人を回る姿を手短に描きますが、やがて病気の進行とともに、周りの人に知れ、後半は主人公が家族とどう関わるか、家族が死を目前にした父、夫とどう関わるかが描かれていきます。

二時間あまりの長尺ドラマですが、きっちりした脚本で最後まで見せてくれます。
出演者たちの熱演も伝わるまさにまじめな映画です。

ある人が、この映画は芸術映画だと書いていましたが、そもそも、映画は芸術ではある前に娯楽です。この作品を見て、ある人は自分より不幸な主人公をみて涙ぐみ、またある人は自分と同じ境遇だと納得して、強く生きようと励まされる。それぞれの見方の中で感動し、劇場をでる。

現実の世界ではなくフィクションの世界だとしりつつ。これが娯楽なのですよ。芸術をはき違えてはいけませんね。
最後まで、物語の中に引き込まれて、劇場をでてもらうように、作られていれば娯楽として成功しているのです。

ではこの映画に芸術性はあるのでしょうか?非常にまじめな作品で、それなりの評価はされるでしょう。しかし、どこか物足りなさもあります。果たして愛人の登場は必要であったのか、海岸で娘がチアガールになって見せるシーンが必要か?などなど、確かに登場人物の人生をかいま見せるのには必要ですが、それは小説の範囲での話で、いざ映画となればスクリーンにすべてが具象化されるのですから省略の芸術性が必要ですね。

まぁ、いい映画ではありましたが、映画史の残る「生きる」との決定的な違いが、この作品にはあるのです。