1954年の作品がデジタルマスターでここまで蘇えるのだから見事なものですね。ジェラール・フィリップという名優さんも私にとっては完全に過去の俳優さんで、出演作品など今回が初めてです。
フランス映画全盛期の文芸大作にして、ここ50年以上もの間リメイクさえもないほどの完璧に近いスタッフ、キャストで描かれた文豪スタンダールの「赤と黒」。190分近くの長尺作品で、見たことがある人から、しんどいよという感想をいただいていたので覚悟して見に行きましたが、なんとなんとそんなことはない。冒頭のタイトルが始まった後から一気に物語りは本編へと突入するあたりの展開のうまさは、まさに脚本の妙味でしょうか?
そう思ってパンフレットを見たら「禁じられた遊び」などの名脚本家ジャン・オーランシュ、ピエール・ボストでした。さすが、映画は脚本でその大半が決まるといわれるゆえんでしょうか?
さらに前半と後半で田舎の貴族とパリの都会の貴族のたたずまいの明らかな違いを見事に作り上げたのが「ゲームの規則」などの名美術マックス・ドゥイ。さすがにいいスタッフは見ていてその素晴らしさに気がついてしまいます。
もちろん、そんなスタッフを束ねジェラール・フィリップの名演技を引き出したのがやはりクロード・オータン=ララ監督。文芸映画を得意とするこの監督らしく、丁寧な演出ながら、前半と後半は明らかに演出を変えています。
前半はひたすら出世するための野心に燃えるジュリアン・ソレル(ジェラール・フィリップ)の姿を正攻法で描き、後半、若き娘マチルド(アントネラ・ルアルディ)に悩む彼の姿を、影を利用したり、夜の明かりなどを巧みに利用した演出でゆれる姿を描き出していきます。
そしてクライマックスに近づくにつれ前半、その美貌で見事にジュリアン・ソレルの野望にこたえていくレナール夫人(ダニエル・ダリュー)が一途な恋に燃えながら、再びジュリアン・ソレルに近づいていく。格調の高いカメラアングルでしっかりとエンディングを飾る演出は文芸映画になれたオータン=ララならではの手腕といえますね。
確かに長いですが、途中で休憩も入るし、物語の展開もスピーディで見せてくれる。さらにダニエル・ダリュー、アントネラ・ルアルディの二人の女優さんが本当に個性の違う抜群の美貌を披露してくれるのでそれだけでも楽しめるのです。このあたりの演技力というかオーラを出せる人は今の女優さんでは一人もいませんね。
いい映画でした。年末からジェラール・フィリップ作品が回顧上映されますが、できるだけ見に行きたいと思います