「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「カラヴァッジョ 天才画家の光と影」

カラヴァッジョ 天才画家の光と影

光の魔術師と呼ばれる名キャメラマンヴィットリオ・ストラーロ、彼が自身が敬愛する天才画家カラヴァッジョをスクリーンに映し出すべくして作った作品ではないか、というのが私の第一印象です。

正直、物語は非常にしんどいし、展開が散漫で何を描こうとしているのかが画面から伝わってこない。絵を機嫌良く描いているかと思えば突然暴れ出して投獄されたり、他の人を巻き込んだりして騒動を起こす。その繰り返しが何度も何度も描かれていくので、ええかげんうんざりしてくる。
もちろん、現実のカラヴァッジョがそうであったのかもしれない。けれども映画という一つの作品に完成させたいのならちゃんとポイントを絞って描くべくして彼の半生を描いていかないと、一人の人間としての彼が伝わってこないのです。

もちろん、死の象徴のような黒い馬が何度となく夢に現れたり、絵の一部がゆがむようにちらちらと挿入されたりとシュールな画面づくりの工夫はみられるのですが、なぜここでカメラが移動するの?どうしてここでカメラは引いていくの?というような素人がみても疑問に思うカメラワークが随所にみられます。

せっかくのヴィットリオ・ストラーロの光のマジックが演出の中に生かされていないために、わずかな部分をのぞいて非常にもったいない画面が続きます。
もちろん、冒頭のオーバーラップを繰り返しての本編への導入部はなかなかのものであるし、カラヴァッジョが浮浪者たちに混じって、初めてマリオと出会うシーンの雨の滴か水滴に光るきらきらした輝きと暗闇に差し込む光のバランス、そしてその時の構図ははっとするほどに見事な部分もあります。しかし、こういう驚嘆するほどのシーンがほんのわずかしかないのです。あとは、最初に書いたように数々の名画が美しい色彩で紹介されるあたりの見事さだけが目立つのでヴィットリオ・ストラーロがただ自らの満足で画面づくりしていくだけのような気がするのです。

さらに、主演のカラヴァッジョを演じたアレッシオ・ボーニが今ひとつ迫力に欠けます。ある意味狂気のごとく暴れながらも、天才的な感覚で絵筆をとるという演技が今ひとつ平凡に見えていることです。演出が足りないのか演技力が不足なのかはわかりませんが、このあたりメリハリのない脚本の結果、存在感を出すポイントが定まらなかったからかもしれません。

2時間が非常に長く感じられ、ラストシーンもなるべくしてなってしまうというエンディングは本当に残念です。