「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「暖簾」「二百三高地」

暖簾

「暖簾」
川島雄三監督の見事な演出に恐れ入る出だし部分です。
橋の上を右から左に馬に乗った人が通り過ぎ、そこを一人の旦那(中村雁次郎)が歩いていきます。背景や路地の土塀の構図が美しい。その後を一人の男の子が追いかけていく。これがこの物語の主人公吾平である。

タイトルがかぶりながら一軒の昆布屋の店へ。そこへ丁稚奉公にはいるところから物語は始まりますが、丁稚奉公でする姿をコミカルに描きながらテンポのよいクレジットが次々と続く様はまさに職人芸の世界です。このシーンだけで、この映画のレベルの高さが伺える。

そしてタイトルが終わると暖簾をくぐって大人になった主人公吾平(森繁久彌)が登場する。もう寒気がしますね。
物語はこの主人公が暖簾分けをしてもらって昆布の浪速屋を起こし、繁盛する一方で台風や第二次大戦といった歴史のうねりの中でやがて次男に店を任せて、命がつきるまでを描いています。

タイトル部分の見事さに比べ、中盤から森繁の二役が物語の中心になったあたりからやや間延びした画面も見えなくもありませんが、くりかえされる軽妙な演出のおもしろさは絶妙で、これぞ川島雄三とうならされます。

父が死に二代目を引き次いだ次男が自らの再拝で大きくなっていく店の暖簾を向こうへくぐって画面から消えて映画は終わります。
目に見える個性より作品全体のリズムがオリジナリティあふれ、それが川島雄三監督の持ち味と認めるべきでしょう


二百三高地
公開当時代ヒットし、長らく日本映画の興行収入のトップの座に君臨し、そのテーマ曲も大ヒットして、映画とテーマ曲のコラボレートが大流行するきっかけになった超大作。

劇場で見逃していた一本だったので、今回、なぜあれほどヒットしたかを確認したく見に行きました。

非常に荒削りな脚本ですが、よけいな繊細さを完全に無視し、グイグイと物語を語っていくストーリーテリングは凡作のように見えながら、しっかりとラストシーンまで観客の目をスクリーンに釘付けにする。みれば脚本は「仁義なき戦い」の笠原和夫、納得である。

ロシアの兵士に日本軍の捕虜二人が銃殺されるファーストシーンから、時局が日本とロシアが戦争せざるを得なくなっている緊迫した状況の描写、一気に日露戦争の物語へ引き込んでしまう唐突さは、ある意味繊細さのみじんもありませんが、そこをあえて飛び込んでいく演出も職人芸舛田利雄監督ならではの手腕といえるかもしれません。

時々挿入される状況説明のテロップはしっかりみていても何のことかわからない部分もありますが、そんな細かいことにこだわらず物語はどんどん先へ進み、二百三高地を攻略するという中心の物語だけを描くことに執着した物語構成は、妙に散漫にならなかった原因でしょうね。

壮絶な戦闘シーンが大量の物量撮影で延々と描写される一方で本土の一種のどかな風景が頻繁に挿入され、時の日本のやむにやまれない状況と当時の人々の世相がさりげなく胸に伝わってくるあたりの展開はある意味、見事なのかもしれない。

坂の上の雲」や「日本海大海戦」などに登場する日露戦争の英雄たちのエピソードをばっさりと切り捨て乃木希典の人物象に焦点を集中させ、枝葉の登場人物もあおい輝彦らのエピソードのみにとどめたのがこの作品のヒットの原因だったと思います。

大作なので、それなりに散漫さは避けられませんが、三時間あまりの映像を飽きさせないでみれたというのはこの映画の娯楽作品としての値打ちとラストシーンで乃木希典明治天皇の前で号涙させて人間ドラマとしての厚みを描くことに成功した証明であろうと思います。

見応えのある娯楽映画としては秀作であったというのが私の感想です