「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「十三人の刺客(2010)」

十三人の刺客

言わずと知れた1963年工藤栄一監督が演出した娯楽時代劇のリメイク作品である。
オリジナル版の脚本を踏襲し、シーン展開からプロットの組み立てまで基本的なストーリー展開をほぼ忠実に追っていく。
映画は脚本で決まると言った黒澤明監督の名言通り、この映画は明らかに優れた脚本による恩恵が作品のおもしろさの半分を担っている。とはいっても、三池崇史監督版は工藤栄一監督版と演出の違うオリジナリティも随所に見られ、これが三池崇史映画であるという存在感は十分発揮されている。

物語は全く同じなので、そのおもしろさはオリジナル版同様おもしろかった。これこそ娯楽時代劇といわんばかりのストーリー展開で、時代劇はおもしろいものだという印象を観客に十分伝えたことだろう。ただ、三池崇史監督はやたら首が飛んだり、手足を切られた女が口で文字を書いたりとグロテスクなシーンが目に付くのはいただけない。もちろん、これが三池崇史なのであるが、果たしてあのシーンが必要なのかという疑問がわかなくもない。

一方、時折、技巧的なシーン演出が見られるのは今回の作品の特徴。スプリットイメージのように戸板の入口を使ったショットや、事が始まりいざ出陣のシーンの突然の雨、クライマックスの宿場町に斉韶到着シーンの霧、など工藤栄一版にないこだわりシーンが挿入されている。

出だしはオリジナル版同様門前での切腹シーン、そして老中による島田新左衛門への斉韶暗殺命令、そして刺客を集める下りからクライマックスは宿場町でのお立ち回りである。斉韶らが宿場町に入ったところで橋が爆破され逃げ場を失って宿場の中で迷路のように走り回りながら島田新左衛門らと死闘を繰り広げる。ときに屋根から、ときに軒先から次々と迫力のあるシーンが展開し、群衆演出に才能を発揮する三池崇史監督ならではの見せ場の連続である。

二時間二十分ほどの長尺ながら、一気にクライマックスまで引き込んで一気にエンディングさせる豪快さはまさにエンターテインメントでした。

あまり、オリジナル版と比べるのはどうかと思いますが、オリジナル版の美術セットは名美術監督川徳道さん、あの込み入った迷路のような狭苦しい宿場セットのおもしろさこそこの物語の見所であったのですが、さすがに今回はこの宿場が非常に空間が大きすぎるようにも思いました。その分、火薬や派手な演出で見せていくのですが、延々と続く立ち回りのシーンも後半になるとこの空間がちょっと凝縮されたおもしろさにマイナスになったように思います。

もちろん、オリジナル版は五十人あまりの斉韶たちに対し十三人で立ち向かうというのですから、今回の二百人あまりに対するものと空間演出が違って当然なのですが、その辺が妙に気になりました。それと、ラストで新兵衛が「皆死んでいった」と仲間が死んだのを知っていますが、一緒に死闘をしている新兵衛がなぜその状況を知っているのか?という疑問があります。オリジナル版では確か途中でまるで「七人の侍」のごとく、いまの戦況を×を入れながら確認する場面がありましたね。こちらもあの状況でのんびりそんなことできるの?と思えなくもないのでどっちもどっちですが。

いずれにせよ、徹底的な娯楽映画で突っ走ったオリジナル版に比べ、ちょっと理屈っぽいセリフなどもかいま見られ、これはこれで三池崇史監督作品としておもしろかったです。