「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「我らが愛にゆれる時」「宇宙飛行士の医者」

我らが愛にゆれる時

「我らが愛にゆれる時」
「北京の自転車」のワン・シャオシュアイ監督作品でベルリン映画祭脚本賞受賞作品である。
非常にドライな演出と緻密に構成された見事な脚本、そして一見殺伐とした画面がラストで一気にエロティックに爆発し、ぞくっとするほどの怖さを覚えてエンディングを迎える見事な傑作でした。

主人公メイ・チューは数年前に離婚をし前夫との間に一人娘ハーハーがいる。現在は優しい夫シエと暮らしているが前夫シアオ・ルーとも時々あうほどの幸せな毎日でシアオ・ルーもキャビンアテンダントの美しい妻ドン・ファンと幸せな生活をしている。

物語はこのメイ・チューが不動産の仕事で乱立するマンションを案内しているところから始まる。供給過剰気味なのか空室が増えてきたマンションを案内しているメイ・チューのところに携帯電話で娘が熱を出していると連絡が入る。

夫と二人で翌日病院につれていくと、なんと骨髄移植が必要な白血病のような病であることがわかる。そして当然のようにドナー探しとなり、母親も父親も誰も適合しない。ここまでの展開ではこれから難病物のメロドラマかと思いきや、次にメイ・チューが考えたのがもう一人子供を作ること。それもハーハーと同じ両親であることが最良ということで、前夫と自分との子供である。当然、それぞれの今の伴侶との確執は避けられないものの、クリアして人工授精までこぎつける。

ドライな展開で、無味乾燥な立ち並ぶマンションの景色が繰り返され、右に左に走るモノレールの映像が実に物語の殺伐としたムードと中国の一人っ子政策への批判などもさりげなく挿入し作品を盛り上げる。

ところが、三度の人工授精も失敗、究極はSEXによる妊娠へと結論はたどり着く。
メイ・チューは夫に内緒で、シアオ・ルーは妻に打ち明け、離婚することでいざ行為に望む。冒頭でメイ・チューが案内した高級マンションの一室、ベッドには真っ赤なシーツがしかれ、今までの映像と打って変わっての妖艶な雰囲気が映画を盛り上げる。そして、ボタンが押されてしまったメイ・チューの携帯から夫に今のメイ・チューの様子が漏れてしまい、シエも知ってしまう。このさりげない演出が実に見事な脚本である。

そして、行為が終わりそれぞれの家に帰るとシアオ・ルーの妻ドン・ファンは飛行機の故障で帰宅していて、そのときに生死を考えハーハーのことを思い出し、離婚を思いとどまって帰ってきたと告げる。
一方、すべてを知っているシエは今度生まれた子供は二人の子供として育てようとさりげなくメイ・チューを許す。複雑な表情でじっと見つめるメイ・チューのショットで暗転エンディングとなる。みごとである。

「宇宙飛行士の医者」
ロシアのアレクセイ・ゲルマン・ジュニア監督の映画で、ヴェネチア映画祭監督賞受賞作品である。
時は1961年、旧ソ連が有人宇宙飛行を実現すべく躍起になっていた時代が背景となる。
白夜の壮大な湿原にあるロケット発射場の景色が延々ととらえられ、カメラが次々と人物の会話を映し出していく。そして、会話のそれぞれが間断なくロシア文学のごとき内容で語られていく様は正直、最初はかなりしんどい。

ロケット発射の6週間前から映画が始まり、これまでの発射実験での失敗や、訓練中の事故などを描きながら、ロケット発射が成功すればすばらしい未来があるかのように日々過ごす人々の姿をみて苦悩する主人公のダニエルの様子が淡々と語られる。

五週間前、四週間前、三週間前と物語はすすみ、やがてダニエルの妻ニー名がモスクワからやってくると、途中で古い物を消却し新しい時代に向けて躍起になる軍人たちの姿をとらえたり、映像的に劇的なショットも増えてきて画面がしだいに動きを持ってくるあたりは見事なものである。

そしてロケット発射の日、すでに一人の仕官の死などで極度に精神的に追い込まれていったダニエルは自転車に乗りながら突然息絶えてしまう。死んだ両親のところへいくシュールなシーンも交え、なかなかの映像演出も冴え渡り秀作の貫禄をもってくる。

それから10年、妻ニー名の現代の様子、初めての宇宙飛行士(ガガーリンのことだろう)が飛行機事故で死んだという史実なども語られて映画は終わります。
全体が一つの固まりのように映像、会話、物語、演出が施されているので、本当に二時間見入ってしまうのはかなり疲れますが、作品の出来映えはなかなかの物だった気がします。久しぶりにロシア映画の秀作をみたという感想でした。