「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「恋と愛の測り方」「レンタネコ」「ポテチ」

恋と愛の計り方

「恋と愛の測り方」
ちょっと個性的な演出が光る佳作でした。もっと単純なラブストーリーかと思っていたので、なかなか凝った演出に終始引き込まれる映画でした。

タイトルが終わると、主人公ジョアンナ(キーナ・ナイトレイ)と夫マイケル(サム・ワーシントン」がこれからパーティに出かけるシーン。背後にミステリアスなピアノの調べが流れる中、二人はパーティ会場へ。人物紹介も程々に、マイケルが会社の同僚ローラと親しげに話す姿をじっと見つめるジョアンナの視線が写される。

台詞と画面を切り離して細かく編集を積み重ねていく演出スタイルで、次第に緊張感を盛り上げ、車に乗るジョアンナ。パーティでのマイケルのシーン。などを交互に組み合わせていく。自宅に戻ったジョアンナは不機嫌にマイケルにローラのことを詰め寄るが、あまりにも唐突な展開といえばいえなくもない。しかし、夜中に仲なおりし、マイケルは翌朝フィラデルフィアへ出張。一人残ったジョアンナは散歩の途中で、かつての恋人アレックスに出会う。

マイケルとジョアンナは結婚して3年目。ジョアンナがアレックスと最後にデートしたのは2年前という台詞から、微妙にジョアンナとアレックスの関係がマイケルとジョアンナの関係に重なっていることが伺える。

一方のマイケルは商談の後、ローラと二人きりになり、バーで語っている。ジョアンナもアレックスの友人夫婦と一緒に食事をすることになり歓談している。画面はこの二組を交互に巧みに描きながら、時にいまにも一線を越えてしまいそうなそれぞれのカップルを緊張感あふれる細かいカットで紡いでいくのだ。

マイケルもジョアンナを、ジョアンナもマイケルを愛し、何の不満もない。当然、今の状況で浮気をすることは絶対にいけないという大人の理性が働いている。最後の最後までこの前提が貫かれる展開は緊迫感が途切れない上に、非常に作品に格調を生み出している。さすがに脚本家出身の監督だけあって、懲りようはなかなかのものである。

お互い理性が働いているにも関わらず、ジョアンナはアレックスの部屋へ。マイケルは誘われるままにローラとプールで下着姿で会話をする。しかし、物語が進んでもマイケルとジョアンナのそれぞれの伴侶への思いが揺らぐことがない。

終盤、夜明けまで時間が迫る。アレックスは翌朝パリへ戻らないといけない。ベッドにジョアンナを誘い腕枕で抱き寄せる。しかし、それ以上はジョアンナの無言の拒否が漂う。一方のマイケルは誘われるままにローラの部屋に。そしてとうとう一線を越える。翌朝、マイケルが身支度を整えていると着替えのシャツからジョアンナの手紙「夕べは疑ってごめんなさい・・・」。胸に突き刺さるようなシーンである。マイケルは同僚に後を任せ一人帰る電車に乗る。ジョアンナはアレックスを見送り自宅へ帰る。

帰ったマイケルはジョアンナが泣いていたことを知るが、その意味を問うことなく抱き寄せる。足下に脱ぎ捨てたジョアンナのヒールを認めたマイケルは何かを察する。ふと離れたジョアンナが息を吸い込んで何かを話しかけようとして暗転、エンディング。全く見事なラストシーン。それまで積み重ねられてきた緊迫のドラマが一気に吹き出そうとする寸前のエンディングに思わず息をのんでしまう。

こうして、振り返って思い出してみると、この作品の完成度の高さが確認できる思いです。絶対にほころびることのない夫婦の絆にふと入り込む過去の後悔やアバンチュールへの思い。それらが夫婦の崩壊を生むのか生まないのかという現実とフィクションの狭間の見事なストーリー展開。台詞と画面、空間を細かく組み合わせて描く映像のは以後に流れるピアノの旋律。傑作とまではいかないまでもなかなかの佳作の一本だった気がする。

「レンタネコ」
癒し系映画の元祖的な「かもめ食堂」の荻上直子監督の新作はどこかファンタジックな夢物語風のオムニバスでした。

いつものパターンのほんのり映画だろうと思ってみるのですが、いわゆる小津安二郎監督作品がそうであるように、アクもないし、癖もないのがかえって退屈しないという典型的な映画です。今回も特に爆笑するわけでもありませんが、終始、にこにこと不思議なファンタジーを楽しむことができました。

物語は主人公サヨコがネコをレンタルしているという物語。そこにやってくる四人の人物をオムニバス風にドラマ展開させてストーリーが進みます。合間合間に繰り返しによるユーモア満点のシーンがちりばめられてほんのりさせてくれる。

余命わずかな老婆がネコを借りる最初のエピソード。家族に疎んじられて寂しいサラリーマンのエピソード。仕事を任されているものの、目的も、目標もなくして無意味な毎日を送るレンタカー屋の女性のエピソード。最後はサヨコの幼なじみに再会するエピソードとそれぞれにネコをからめて、ギャグをちりばめていく。

おばあちゃんが死んだ後ひとりぼっちになったサヨコの境遇は全く語られないし、一見、不幸な家庭のようだがそんなものがみじんも見られない人物描写。学生時代は保健室で過ごさないといけないような体調だったようですが、それもあまりこだわらない。結局、このサヨコが幼い頃からさみしさのあなぼこにはまりこんでいたということなのだろう。そして、一人になって、みんなのあなぼこを埋めるためのレンタネコ屋をしているという一種のファンタジーなのです。

この主人公にふれて、日頃の自分の毎日をうめて、どこかほんのりとハッピーになって映画館をでることができればよかったんじゃないでしょうか。そんな映画でした。エンドタイトルのイラストも楽しいし、繰り返しばかりのストーリーにも関わらずユーモア満点のテンポも楽しめる。「かもめ食堂」ほどの秀作ではないものの、萩上監督の感性がちゃんと映像になった一本だったと思います。

「ポテチ」
東北支援の低予算映画ですが、さすがに伊坂幸太郎さんのナンセンス不思議ワールド炸裂の一本で、ファンとしてはとっても楽しかった。しかも、ベストパートナーで大好きな中村義洋監督作品。1時間あまり、さりげない笑いと、??みたいな展開に引き込まれていくうちにラストシーンではちょっと胸が熱くなって感動してしまいました。

物語は空き巣を本業とする今村が兄貴分の黒澤と話をしているシーンに始まる。今村が先日受けた健康診断で大変なことがわかったという。そのとき、母にも健康診断を勧めたという台詞に何か親子関係の問題かと伏線がはられる。

そしていきなり今村が恋人の若葉と野球選手の尾崎のところへ空き巣に入っている。なんともひょうきんな導入部はいつものことながら、くすっと笑えてしまう。そこにかかってくる電話。尾崎に助けを求める女性の声。そういえば同じ状況が過去にあった。という今村。かつて、親分と呼ぶ男(中村監督)と空き巣に入った部屋に電話。今から自殺するという女の声に、今村が助けにいく。なんとそのときの女が今の若葉。もうくすくすっとわらってしまう。

この事件に絡めて黒澤が仕掛けたドラマは、尾崎に助けを求めてきた性悪女とその彼氏を利用して万年ベンチ入りの尾崎をバッターボックスにたたせること。実はこの尾崎は今村と生年月日が同じ。調べたところ今村の母の実子はこの尾崎で、先日の健康診断で判明したのだ。今村はいままで自分のような出来の悪い子供を育ててきた母がかわいそうで仕方ないので、本当の息子はこんなに立派なのだと見せたくて、計画を練ったのだ。

球場へ出かけた今村親子と若葉、黒澤。黒澤が仕掛けたわなで球団の監督は尾崎をここ一番で代打に出さざるを得ない状況に追い込んである。そして、ここ一番の場面。尾崎が登場。ツーストライクまで追い込まれたところで、今村がセンター裏に飛び出し、ここをめがけて打てと叫ぶ。そしてホームラン。今村の目に涙があふれる。知らないとはいえ、母は実子の晴れ舞台をみたのである。

伊坂幸太郎の小説は映像になってこそそのおもしろさが光るような気がします。原作を読んだものもありますが、映画版の方がだんぜんおもしろい。ちょっとシュールで不思議な世界ですが、どこか人の心に訴えるものもしっかりと描かれているところが良い。そして、中村義洋監督がまたベストマッチングんおです。この映画、小品ですがとっても良い映画だったと思います。