「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「L.A.ギャングストーリー」

L.A.ギャングストーリー

久しぶりに一級品のフィルム・ノワールを見た気がします。多彩なカメラテクニック、感性豊かなカメラワーク、カメラアングルを縦横無尽に駆使した映像。そして、シンプルなストーリーに丁寧に書き込まれた脚本の妙味。しかも、映画の本質である娯楽性もおろそかにしない演出。おもしろい。そかも、美しい。これがスクリーン映画である。

監督は「ゾンビランド」のルーベン・フライシャーである。少々残酷なシーンもちらほら見えるが、そんなところをそっちのけにしても、映像の美しさに引き込まれてしまう。特に、美術セットの色彩が目を見張るのもこの作品のすばらしさの一つである。

物語は単純。ロサンゼルスを牛耳っているギャングのボス、ミッキー・コーエン。彼には警察さえも歯が立たず、飛ぶ鳥落とす勢いで、どんどんその勢力を広げている。そして、誰もが彼になびき、とけ込んだ方が安全だとあきらめている。

そこで、パーカー市警本部長は、正義感の強いジョン巡査部長を中心にしたメンバーを組織し、ミッキー・コーエンにゲリラ戦を挑むというもの。いわゆる「アンタッチャブル」の世界である。そして、こちらも実話を元にしているのだから、この当時のアメリカはすごい時代だったのだと思うのです。

ミッキー・コーエンはもとボクサーで、その全盛期の姿がスローモーションのセピア映像で映されて映画が始まる。そして、夜景の美しいロサンゼルスの丘、ミッキー・コーエンに逆らったらしい男が車に引き裂かれるシーンへつづく。ぶちっとちぎれる体のショットがかなりえぐいのだが、余りに構図が美しすぎて、ふっとんでしまう。

シーンが変わると、無鉄砲な巡査ジョンが、いまにもコーエンの娼館につれこまれんとする女性を救うために、一人で乗り込んでで大暴れする。マシンガンの銃撃がスローモーションとハイスピードのアクションと、ぶちこわされるドアや壁のシーンが華麗なほどにみごと。

最初にも書いたが、実にカメラアングルが美しい。夜のロサンゼルスの大通りを真正面にとらえる構図は目を見張るし、後半にジョン等が殴り込むコーエンのカジノの中のアングルも、実に見事なのである。そして、レトロな色彩の中に、モダンで華やかな配色を施した美術もうっとりするのである。

最初は仲間にはいるのを渋っていたジェリーが、靴磨きの少年を殺されたことで、一気に仲間に入っていくというさりげないエピソードの組立もみごと。

最初の襲撃で失敗し、捕まった二人を助けるときに集まってくるジョンの仲間たちと、警官との拘置所襲撃シーンもまた、見事なもので、煙、外からのシーンと突入する仲間のシーンのカットバック、くり返される銃撃の後のおちまでが息をのむのです。

さらに、ジョン等がコーエンの麻薬取引を押さえるときのカーチェイスのすばらしいこと。大きく大胆に俯瞰で走る車をとらえたカメラは、ぐ〜んと疾走する車に寄って、運転するジェリーをとらえる。そして、始まる銃撃戦。時にカメラが回転して入れ替わる車の姿を、前から後ろからとらえるスピード感はたまらない。

さらに、終盤のカジノ襲撃シーン。警報を遮断、的確にその本拠へ踏み込む。舞台での歌手の歌声のテンポ。まさにヒッチコックの世界である。

そして、クライマックスは、盗聴されていたのをミッキー・コーエンに感づかれ、逆に利用されて、チャイナタウンの取引を流されて、わなにかかったジョンらが、逆に襲撃される。チャイナタウンでの赤い色彩を中心にたシーンが美しい。そして、留守をしていた唯一、家庭のあるキーラー巡査が殺され、ジェリーと恋人同士になったミッキーの愛人グレイスをかくまったジャックも殺される。ジョンの妻も襲撃されるも間一髪で助かる。

そしてクライマックス。ミッキーが住まいするホテルを襲撃するシーンへ。
逮捕状をもち、残ったメンバーで無謀にも、要塞のように警護されたミッキーの待つホテルへ。まるで摩天楼のような建物が夜空にそびえるカットが実に見事。

スローモーションを駆使した映像と派手な銃撃戦が炸裂し、ベテランマックス巡査が殉死、そして最後の最後に無様な姿に殴られたミッキーを逮捕。残ったメンバーのその後がナレーションされてエンディング。

ロサンゼルスの美しいイラストをバックにしたエンドタイトルが流れる。これが映画の醍醐味である。キャラクターの描写もしっかりしているし、細かいせりふも丁寧な伏線とユーモアが交えられ、流麗すぎるカメラワークと美しいアングルに彩られた映像が見事にコラボレートし、シンプルなヒーロードラマが展開していく様は絶品でした。

最近見た映画で、ダントツの完成度に舌を巻く一本でした。傑作。