「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「母の身終い」「ソウルガールズ」

母の身終い

「母の身終い」
尊厳死の問題を真正面にとらえた人間ドラマの秀作。尊厳死というのは、つまり、病気などで、余命が幾ばくもなったりしたとき、終末治療で最後を迎えるのではなく、自らの意志で、つまり自殺をすると言うことである。

もちろん、そんなことが認められる国は限られているので、この映画では、それが認められているスイスがラストシーンの舞台になる。

映画は、トラック運転手のアランが、ふとした出来心で犯罪を犯し、18ヶ月の拘留の後、出所してきたところから始まります。

家には、年老いて、アランとは仲のよくない母イヴェットがいるだけである。ことあるごとに口げんかをしてしまうアランとイヴェット。しかし、イヴェットは悪性の腫瘍で、余命が幾ばくもない。

ある日、アランはイヴェットと口げんかをして、家を飛び出してしまったりする。ボーリング上で知り合った女性クレメンスと懇ろになるが、それも、いらついたアランのちょっとした言葉で、喧嘩別れしてしまう。イヴェットには隣人の友人がいるが、やはり、アランがいとおしく、物音がするとアランが帰ってきたのではと玄関にいき、一人むせびなくシーンが実に切ない。

イヴェットの飼い犬キャロルが体調を崩したことがきっかけで、アランは家に戻ってくる。いままで、別のテーブルに座って食事をしていたが、ここから一緒に食事をする。

ある日、スイスの施設で尊厳死を迎える書類をアランが見つけてしまう。

複雑な心境のアランだが、尊厳死を司る協会の人が説明にやってきて、やがて、その日を迎えるべく二人はスイスへ。そして、イヴェットは、薬をもらい、自ら飲み干して、死んでしまう。泣きじゃくるアランの姿が、本当に切ないラストシーンになります

長回しのフィックスのカメラアングルは小津安二郎のごとしで、会話のシーンをじっと見据える視点が実に、辛辣さともの悲しさ、そして、どこか問題定義されているようで、見事な演出が繰り返されます。

全体は、淡々としたストーリー展開ですが、イヴェットやアランがそれぞれに食事をするシーンが頻繁にでてきて、生にたいする意味を問いかけられているようで実に秀逸ですね。

確かに、重いテーマですが、まるで、詩編のようなリズム感が、ラストシーンの別れに感情を最大限に高ぶらせていくという、心のこもったところも十分にある、見事な人間ドラマでした。


ソウルガールズ
オーストラリアの先住民、アボリジニの初の実在の女性ボーカルグループ「サファイアズ」の軌跡を描いた、とってもキュートなミュージックムービー。予想したとおりの物語でしたが、期待したとおり、楽しませてもらいました。とってもすてきで魅力的なシンデレラストーリーに感激。

なんといっても、透き通るような歌声が、全編に散りばめられていて、四人の主人公たちの夢に向かってはじけていく笑顔が、とにかく素敵。もちろん、その物語の中心がベトナム戦争の戦場におかれているために、時にシリアスなカットも挿入されるが、それをさておいても、全体がとにかく陽気で明るい。

映画はまず、アボリジニの存在についてのテロップから始まり、1958年、この物語の中止になる四人の女性の幼い頃に始まる。まっ黄色なレモン?オレンジ?の畑の中をかけていくファースとシーンがとっても美しい。

そして、透き通るような歌声が披露され、時は1968年に。何とかスター歌手になるべく夢を持つ彼女たちは、カントリーミュージックで、町のオーディションへ。しかし、極端なアボリジニへの偏見で、落ちてしまう。しかし、彼女の実力を見抜いた、飲んだくれのデイヴが彼女たちをベトナムの慰問団につれていくことにする。

こうして、彼女たちのシンデレラストーリーが始まるが、時はベトナム戦争まっただ中。しかも、三人の姉妹と一人の従姉妹の、恋、諍いなどがさりげなく挿入され、物語はさらに深みを出していく。一方で、決して重くならずに、常にソウル・ミュージックの甲高い歌声と、彼女たちのパフォーマンスにどんどんスクリーンに引き込まれる。

終盤に語られる、アボリジニの子供たちのさげすまれた扱い、特に、白い肌で生まれたアボリジニが白人にさらわれていく、などという非人道的な描写は、この作品を単純なシンデレラストーリーにしたくない作者の気概が見えたりもします。

物語は、彼女たちがベトナムの戦地でどんどん、その人気を高めていき、それぞれのメンバーの恋も成就していきながらの上り坂のピークでエンディングになるが、実在のメンバーたちのその後のテロップは、実に夢をかなえたすばらしい人生なのだから、もう感動せざるを得ませんね。

大好きなジャンルの映画でもあり、若干荒いところもないとはいえないけれど、とってもいい映画でした。