「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ミスティック・アイズ」「MUD-マッド-」

ミスティック・アイズ

「ミスティック・アイズ」
ベネディクト・カンパーバッチ主演で、2012年モスクワ国際映画祭で評価されたミステリー映画である。監督はディクティナ・フードという人。

仲むつまじいデヴィッドとドーンの夫婦が、不妊治療の診察室でいるシーンから始まる。どうしても子供がほしいドーンは、その検査を受けに夫婦できたのである。

ある日、ドーンが帰ると、デヴィッドの弟で、湾岸戦争にいたニックがやってくる。調子のよい、陽気なニックだが、彼がきてから、どこか歯車が狂っていく感じがするドーン。クローズアップでドーンの顔を画面の半分に映し、そのむこうにニックとデヴィッドを配置した構図が不安を生み始める。

丁寧に書き込まれた人間ドラマだし、登場人物の心理変化が実にうまく映像になっている。その点では、なかなかの秀作だが、あまり好きなストーリーではないし、映像演出もそれほどの好みではない。従って、普通の感想になってしまうのです。

ニックは、戦争の後遺症で。夜中に出歩いたりするし、幼なじみのデイブが妙に、デヴィッド達に絡んでくる。やがて、デヴィッドには生殖能力がないことがわかり、どうしても子供がほしいドーンと微妙な関係に。しかも、勢い余って、ドーンはデイブに身を任せたり、ニックに近づいたりするのだから、いったいこの女は何なのだと思ってしまう。しかも、そんな不穏な様子を陰で見つめるデヴィッド。さらに、幼い頃に母親をデヴィッドがつき落としたなどという過去も、ドーンは知るに及び、事態は最悪の展開へ。

ところが、ある夜、ドーンの体調がおかしくなり、病院に行くと、実は妊娠していたことがわかる。そして映像は、ドーンが出産し赤ちゃんを抱き、ほほえましくデヴィッドと歩くカット、そこでデイブ夫婦とすれ違い、デイブが去っていくカットでエンディング。一方のニックは脱走兵だったし、戻ってきていることをドーンがデヴィッドにはなすと、わかっていると納得されて暗転。

子供の父はデイブだろうし、それを許したかのようなデヴィッドのラストの表情も複雑。心理ドラマも見事に描き、演じ切れた作品で、なかなかの秀作だと思います。ただ、好みではない。


「MUD(マッド)」
乗りに乗っているマシュー・マコノビー主演、ジェフ・ニコルズ監督作品。

なるほど、限定公開から拡大公開になるだけある傑作でした。すごくよかった。少々、複雑にし過ぎたきらいはあるものの、今年見た外国映画では最高の一本でした。

物語は、主人公のエリス少年のところに、友達のネックボーンから電話がかかってくるところから始まる。実は、洪水で、木の上に打ち上げられたままのボートを見るために、中州の島に行くという約束をしていたのである。
彼らはボートハウスのような住まいで、水上生活をしている。

目的地に着くと、そこには、一人の男マッドがすでにいた。彼は、幼なじみの恋人ジェニパを助けるために力を貸してほしい。このマッドはジェニパを救うために、ある男を殺し、その男の父親が大物で、その組織がマッドをねらっているので、近づけないのだという。実際、マッドは指名手配もされているのだ。

こうして、まるで「スタンド・バイ・ミー」のような導入部から物語が始まり、マッドのために奔走する二人の少年と、エリスの初恋、さらに、謎の老人で、マッドが頼りにするトム、エリスの両親の離婚の話などが絡んでくる。

全体に流れる、淡い恋の物語と、切ないほどの男の純情を中心にお話は進む。マッドをねらう男達は非常に危険で、その中を必死でかいくぐってマッドを助けるエリス達。町で見つけたジョニパに近づくエリス達のエピソードや、トムの正体、さらにクライマックスの切ない失恋まで、書き込まれたエピソードも飽きさせない。そして、毒蛇にかまれたエリスを、危険を省みずに町の病院に運んだマッドは、組織に見つかり、銃撃戦のクライマックスになる。

そして、やがて、エリスは町に行くことになり、何とか助かったらしいマッドと修理して完成したボートに、一緒に乗るトムと大海原に向かうところでエンディング。

てんこ盛りのエピソードが、やややりすぎのきもするくらいだが、非常に、一つ一つのせりふがきっちり物語の中で生きているし、中盤の転換場面、ジェニパ救出計画実行時の美しい景色のショットなどが、スパイスになって、すばらしい映像展開も見せる。

とにかく、どんどん引き込まれるストーリー展開と、甘酸っぱいラブストーリーが絶品の傑作で、無理をして見に行って大正解の作品でした。本当によかった。