それほど期待もしていなかった映画に、思い切りほんのりと感動させてもらった。なんか、映画を見ていてよかったなぁという瞬間を味わいました。
北乃きい、岡田瑛二主演の「ヨコハマ物語」
物語の展開がとってもいいのです。これといったカメラがすごいとか、映像が美しいとかではない普通の映画かもしれないのですが、奥田瑛二扮する田辺良典の物語に始まって、一端は周辺の女性の物語でどんどん本編が展開、そして最後の最後でもう一度田辺の物語に収束して終わる。この流れがとにかくハートフル。ほっとする暗転ラストシーンに、いつの間にか胸が暖かくなって劇場をでました。
サッカー場の芝生のグリーンキーパーである田辺が定年退職する日に映画が始まります。みんなに見送られて家に帰ってみると、妻が死んでいる。暗転タイトル。そして四十九日。
公園でぼんやりと路上ライブを見る七海。墓参りする田辺、帰り際、墓の前で悪態をつく七海を見つけた田辺が声をかけた直後、七海は倒れてしまう。
田辺の家で食事をとり、しばらく田辺の家に住むことになる七海。こうして奇妙な同居生活がこの映画の本編となる。
七海が外で関わった女性たちが、次々と田辺のシェアハウスにすむようになり、それぞれの女性のそれぞれの人生が、一つ屋根の下に暮らすことで未来へと一歩づつ踏み出していく物語が本当にいいのです。
大学院まででたエリートながら、今の会社で営業成績が伸びずに悩む女性、未婚の母で子供を必死で育てる女性などなどが、七海の前向きな気力と、家族のような人々との交流で、一歩先へ進んでいく。その合間合間に挿入される田辺の亡き妻の思いでのシーンが、これもまたしつこくなくて、程良い暖かさを画面に生み出す。
やがて、七海も、目指した音楽プロデュースがうまくいきはじめ、それぞれの人生が動き出す。しかし、それでも田辺の家を家として帰るべきところに選んでもどってくる。
そして、田辺は粗大ゴミの日に、これまでの思い出を出すのだが、なんとそこにあったサーフィンボードは、退職の日に妻がプレゼントのために買っていたもので、妻からの最後の手紙が見つかる。
いったん散りかけた物語がここで、再度収束し、それぞれの人物の希望を予感させて映画が終わる。たわいのないゆるい映画かもしれませんが、元気がわいてくるような気がする一本で、とっても良かったです。