「グレートビューティ 追憶のローマ」
アカデミー賞外国語映画賞受賞作品。いきなり始まる美しい音楽と、美しい映像。そして展開する、現実とも幻想ともいえないめくるめく乱痴気騒ぎの連続。
ただ者映画ではない導入部に一気に引き込まれ、女性の絶叫から映像は乱痴気騒ぎの世界へ。
突拍子もないカット編集と、音楽のリズムに乗せてくるカットつなぎが、実に見事な導入部だが、続く展開は、繰り返される様々な人々との主人公ジェップの会話の応酬と、映像の氾濫、しかしその個性は本当に見事なほどに美しい。
ただ、正直二時間を超える物語というか、それほど劇的な展開もなく、ただひたすら個性的に研ぎすまされた映像だけで引っ張っていくのは無理がある気がしないでもない。
強いていえば、フェリーニの「81/2」を思わせる世界である。
作家である主人公ジェップは、今やローマの町では売れっ子で、毎夜、様々な人々との交流に日々を送っている。そこに、かつて愛した女性の死を聞くに及び、自分が老いたことに気がつき、再び筆を執る決心をするのだが、その決心の心理世界も、人々との会話の中に展開する。
全くのシンメトリーな構図のみでなく、まるで夢のような幻想的な場面を作り出し、ジェップの服装は、パステルカラーに近い原色の上着を中心に、その氾濫した色彩の中に浮かび上がる。
調度品や、背景、建物や風景をとらえるカメラは本当に見事なくらいに鋭い感性により美しくとらえられており、夢幻か、心の風景か、そのとらえどころもない映像芸術となって結実している。その意味で、かなりの出来映えなのははっきりわかるが、正直、しんどかったといえなくもないのである。
この映像演出なら、やはり、90分にコンパクトに凝縮すれば、密度の高い傑作になり得たかもしれないが、その点だけが残念。しかし、映画としてはかなりの秀作である。
「火の馬」
セルゲイ・パラジャーノフ監督特集として、彼の代表作をみる。
大胆な映像演出と、豪快なカットに独特のオリジナリティを感じる一本でした。
物語は主人公イワンの少年時代、兄のところへやってくるが、木を切り倒すところに弟がきたので、それをかばい兄が死んでしまう。その葬儀の場で、家同士が仲の悪い、相手のマリーチカという少女と出会い、仲良くなり、やがて少年、時代青年時代と時がたち二人は恋人になるが、ある夜、マリーチカは川に落ちて死んでしまう。
やがて、イワンはパラグナという女性と結婚するが、いつまでも子供ができず、パラグナはユナという男と恋に落ち、イワンは殺されて葬儀の場面、イワンはマリーチカと森で再会し、エンディングへ流れる。
殺される場面で、森の木が真っ赤に変わったり、冒頭の父親が斧で殺されるショットで、馬が赤いシルエットに描写されたり、美しくも大胆な演出が施され、カメラアングルも、時に幾何学的な居酒屋のテーブルなど独特の世界が展開。
これもまた独創性が生み出したものだと感心するが、ストーリーテリングはかなり適当なのは、これもまた個性かもしれませんね。
「ざくろの色」
アルメニアの詩人サヤド・ノヴァの生涯をその詩の想像的世界を全編せりふなしで描いたいわば、映像詩的な作品である
その構図や色彩演出は、先日見た「スラブ砦の伝説」に近いイメージで、セルゲイ・パラジャーノフの感性が爆発している一本で、とにかくその独特の世界に引き込まれる魅力があります。
幼少期から少年期、青年期、老年期、そして旅立ちまで、細かく分けたエピソードを連ねていきます。
シンメトリーな構図の中に、美しい色合いの小道具を配置し、人物の動きを機械的に配置していく。せりふがないので、ナレーションのみとなるものの、映像が語りかけるメッセージがシュールな味わいで伝わってきます。
商業映画とはいえませんが、見て損のない一本でした。