ちょっとした名編に出会ったという感じの、素敵な映画をみました。
パスケル・メルシエという人のベストセラーを映画化した「リスボンに誘われて」監督はビレ・アウグストです。
すばらしいのはそのラストシーン。すべての謎が明らかになって、スイスのベルンへ戻ろうと汽車に乗ろうとする主人公ライムント。彼を見送るマリアナが「残ればいいのよ」の一言に二人は静止、暗転。
映画は、一人でチェスをするライムントのシーンに始まる。続いて、橋の上で、今にも飛び降りようと欄干に乗っている女性を遠景でとらえ、たまたま通りかかったライムントが彼女を助け、教室までつれていく。しかし、程なくして彼女はいずこかへ行き、忘れ物のコートを持って追いかけるライムントは、コートの中に一冊の本を見つける。そして、その本の買い主を訪ね本屋に行って、本に挟まっているリスボン行きの切符を発見、駅へ駆けつけるが、彼女はいない。まもなく汽車が発射、思わず乗り込んでしまうライムント。
とってもファンタジックなオープニングだが、ライムントが列車の中でその本を読み、その本の著者に興味を持ち、着いたリスボンで、本の著者アマデウのことを調べていく。背景にあるのは、1970年代はじめのポルトガルの革命という歴史の一ページだった。
アマデウの家を訪ね、妹のアドリアーナに不在だといわれるが、家の使用人が、彼は死んだと伝える。そこから、物語は、アマデウの若き日、彼の恋人でなにもかも記憶するエステファニア、そしてアマデウの親友のジョルジェ、革命仲間のジョアンの物語へ進んでいく。
過去と現在を交錯しながら展開する物語は、アマデウが関わった生き方に、凡々と暮らすライムントの人生を見つめ直す物語である。
平凡に人生を終えることも、ライムントにとっては、抵抗はなかったかもしれない。しかし、リスボン行きの列車に乗ったことが一つの選択であり、それが、偶然の結果であるにしても、そこに映画としての虚構が介在し、映像に変わっていく。この展開が、実にうまい。
アマデウとエステファニアの恋が、いつしかライムントとマリアナの恋へと重なっていくような予感で映画が終わるこの不思議なファンタジーのような余韻が、この作品の最大の魅力ではないかと思う。
名編という言葉がぴったりの一本だったきがします。