「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「リアル鬼ごっこ」(園子温版)「雁」(若尾文子版)

kurawan2015-07-15

リアル鬼ごっこ
園子温監督作品でなければ見に行かない映画である。なにをどう解釈して感想を書いたらいいのかわからない映画だった。つまり、私の感性が園子温監督を理解し得ないのか、それとも、園子温がまともな人間ではないのか、なんともコメントをしようがない映画である。奇作と呼ぶのがふさわしいかもしれない。ただ、全編に女子高生のパンチラシーンと、グロテスクな殺戮シーンが満載である。

映画は森の中を二台のバスが向かってくるのを空撮でとらえるシーンに始まる。特に中盤あたりまで、この大胆な空撮やクレーン撮影、移動撮影、シュノーケルカメラを使ったような駆け抜けるカメラワークが頻繁にでてくるのがこの映画の特徴である。

バスには満杯に、セーラー服の女子高生。運転手も女である。主人公ミツコはポエムを書いていて、クラスメートにからかわれ、ボールペンを落とす。それを拾おうとしゃがんだとたん、前を走るバスが真横にまっぷたつに斬られ、女子高生が飛び散る。次の瞬間、ミツコの乗ったバスも斬られ、クラスメートは腰から上が吹っ飛ぶ。衝撃的な、ある意味園子温らしいシーンで物語が幕を開けるのだ。

かまいたちのごとき風がミツコを追いかけてきて、必死で逃げるミツコ。途中で出会った人もまっぷたつに斬られる中、ようやく、水辺まで逃げると、そこに、死体の山と制服。そのデザインの違う制服に着替えると、突然、周りに同じ服の生徒が集まり、ミツコはいつの間にかケイコと呼ばれ、私立女子高等学校へ行く。

ところが、授業中に、突然先生が機関銃をぶっ放し、皆殺しに。また、ケイコ(ミツコ)は逃げる。

ある町に紛れ込んだミツコが交番に駆け込むと、鏡を見せられ、姿が変わっている。その姿はケイコで、これから結婚式だからと式場へ。そこで、さっきの高校での友達アキがあらわれ、大暴れして脱出。いや、なんで脱出?

そして、一人逃げていると、今度はマラソンランナーのいずみに変身。そこへ、また、かまいたちのような風が迫ってくる。いずみが何とか逃げて、洞窟にはいると、様々な少女の人形?が飾られていて、怪しい老人が、テレビゲームを楽しんでいる。

つまり。ゲーム世界のヒロインがミツコだったということらしい。さらにゲームを進めるべく、ベッドに横たわるよう指示されるが、ミツコは自ら自殺し、展開を変えようとする。同時に、ケイコも自殺、いずみも死んでしまう。いや、いったい何?

そして、何もかも真っ白になった世界で、ミツコが一人歩いて去ってエンディング。

って、つまり、未来のゲームの世界のヒロインの姿を描いてみましたという映画なのだ。それ以上よくわからなかった。

大胆なカメラワークはおもしろいし、ふつうに女子高生のパンチラシーンがふんだんにでてくる前半から中盤までは、それなりに独創的な映画として楽しめるのですが、中盤から後半、ネタ切れか、息切れか、どうしようもなく平凡に収束していく流れはよくない。山田悠介原作だが、ほとんどオリジナルである。

まるで、製作会社などに反抗しているのではないかと思えるような園子温のすねた顔が見えてくる映画だった。


「雁」(若尾文子版)
以前、高峯秀子主演、豊田四郎監督版をみたのですが、あれはさすがに、豊田四郎の映像美学が光る名編でした。

といって、今回の若尾文子主演池広一夫監督版も、これはこれでなかなかの秀作でした。もちろん、当時としてはこのくらいのクオリティは並だったかもしれませんが、現代ではトップクラスです。

映画は、飴細工のアップから始まり、お玉のアップ、そして、妾になる話を持ってきた老婆の描写から、高利貸しの男の妾になるまでを一気に描いていく。ストーリーの展開は、名作文学の原作でもあり、ほとんど、豊田版と同じである。

低い位置からのカメラでお玉をとらえるカット、家の中の格子を横長の画面に効果的に配置する構図はなかなかですが、ちょっと、無駄にみえるカメラ移動が、せっかくの日本的な情緒を壊していなくもない。

料亭で学生と初めて出会うシーン、小鳥をねらってきた蛇を殺す場面から、医学書のいきさつ、学生が試験に合格して、ドイツに旅立つときのすれ違いドラマと、原作の味が見事にでています。

高利貸しの男の妻の不気味さが、最初の蛇の目傘、仕立てた着物の柄などから徐々に迫る恐怖感も絶品。このあたり、豊田版は雨の影などを用いたシーンになってたと思います。あれに比べると、やや平凡ですが、といって、意図した恐怖感は見事にでています。

お玉の家の格子戸の、ちりんちりんという音が、妙に哀愁を醸しだし、高利貸しの男の、もの悲しい過去もしっかりでている。

さすがに、原作の良さもあるのでしょうが、映画は映画で、なかなかの一本でした。やはり、こういう文芸映画が、今の日本映画では完全に廃れている気がします。素直に良かったです。