「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「イット・フォローズ」「フランス組曲」

kurawan2016-01-08

「イット・フォローズ」
斬新なアイデアと映像で話題になたホラー映画ということで、ホラー大好きな私は、ワクワクして見に行った。確かに、アイデアは面白いし、前半はとにかく怖い。しかし中盤から後半になると、結末がどうなるのかというサスペンスを求め始めてくるので、そこから先が非常にシュールな展開になり、そして、意外と、あっけなく終わってしまった。監督はデビッド・ロバート・ミッチェル。

映画が始まると一人の女性が家を飛び出してくる。アニーと呼ばれるこの女性、何かから逃げているようで、通りの人や父親が声をかけるが、大丈夫だからと逃げ回る。車に乗り、浜辺に行き、父に電話をして別れをいう。夜明けになると、無残に殺されたその女性。そしてタイトル。

主人公のジェイが友達と戯れている。ジェイには彼氏ができて、デートを重ねるが、ある夜、車の中で関係をもった後、薬を嗅がされ、気がつくと車椅子に縛られている。そして彼は、ある者をジェイには感染させたから、そのものから逃げろという。それは、様々な人物になり迫ってくるが、誰かと関係を持てば、その誰かに感染して自分は助かる。しかし、その感染させた人間が殺されると自分に戻ってくるという。

こうして、何かに追われるジェイの物語が始まる。最初は老婆、そしてレイプされたような女、そして男、と次々と襲ってくる何か。友達は彼女を救うべく、逃亡を手伝う。そして友人の一人グレッグがジェイと関係を持つが、しばらく現れない。しかし、突然グレッグは襲われ、再びジェイがターゲットになる。

この何かだが、ジェイ以外には見えないが実態がある。ただ、透明なだけというのが、ちょっとミステリアスに欠ける。最初は、不気味に近づいてくるので怖いのだが、そのうち、その恐怖が薄れてくる。

ジェイは、行きずりの男に一旦移すが、再び彼女に迫ってくる。そこで、友人たちは、8マイル外の建物の中のプールでその何かを待ち、感電させようとする。この辺りからストーリーが一気に飛び始める。雑になってくるのだ。そして、現れた何かを撃ち殺すが、ここまでのシーンで、撃ち殺したことがあるのに、なぜまた同じことをするのかちょっと適当になってきた気がする。友達の中で、以前からジェイに気があるポールがジェイと関係を持ち、二人で手をつないで歩いている背後に、何かが迫ってきて暗転エンディング。

8マイル外という不気味な世界が、鉄条網で囲まれていたり、両親から行くなと言われていたり、寂れた街並みだったり、如何にもな人物が道に佇んでいたりと、この8マイル外の世界が、何か意味ありげである。しかしその説明も、それらしい映像描写もない。この辺りがちょっと適当になってくるのだ。いや、わざとなのかもしれない。何かというのはエイリアン的なもので、何かの失敗で、8マイル内に持ち込まれたという真相もあり得る。

前半のオリジナリティのあるアイデアで飛び込んだ映画が、後半、ネタ切れで、どうしようもなくなって、独りよがりの解釈でエンディングになった感じが、ちょっともったいない。縫うようなカメラワークも面白いし、面白かったはずなのになぁと思う一本だった。


フランス組曲
未完の原作があるとはいえ、非常に完成された物語構成と丁寧でくっきりと色分けされたキャラクター演出が見事ななかなかのクオリティの秀作でした。本当にいい映画でした。監督はソウル・ディブという人です。

1940年のパリの様子の記録フィルムから映画始まり、タイトルとなる。フランスの田舎町の大地主に嫁いだリュシルは夫を戦地に送り出し、義母と農園の仕事をしていた。小作人の取立てをする義母について回る場面から物語が始まるが、次第に戦火がこの村にも忍び寄ってくる。

道に溢れる避難民の群れがみるみる増えてくる見事な描写に続いて、ドイツ軍の侵攻、そして、リュシルの家にも一人の将校が寝泊まりするようになる。しかしこの将校ブルーノは元作曲家で、紳士。とうぜん、リュシルは心を惹かれるが、決定的になったのが、リュシルの夫には愛人がいたというしんじつ。ブルーノの仕事は、人々の内情を送ってくる手紙の分析にあり、その手紙の一通に書かれていたのだ。
物語は、このリュシルとブルーノの物語を中心に、ドイツ軍に媚びを売る町長や、体を求める小作の女を描きながら、もう一方の小作人で、足の悪いブノワの物語を描いていく。ブノワの家に泊まったドイツ将校は卑劣な男で、ブノワの妻をものにしようとする。それを知ったブノワはその将校を誤って殺してしまい、追われる身に。

リュシルはブノワを匿い、パリに逃がそうとする。その後半部分逃がそうと流れる一歩前にリュシルはブルーノと愛を育んでいく。

この並行するストーリー展開から、どんどんサスペンス色を帯びてくる。この転換が実にうまい。

リュシルはブノワを逃がすため、ブルーノに許可証をはっこうしてもらうが、ブルーノが手配した許可証の手紙に、不審に思っていた部下が、検問で詳細に調べる旨を書いていた。

そうとは知らないリュシルは検問に差し掛かるが、許可の手紙を見た兵士たちと打ち合いになる。そしてブノワは怪我をするが、慌てて後を追ってきたブルーノは彼らを見逃してやる。

将校という立場ゆえに、理不尽な命令に従い、銃殺なども行ってきたものの、リュシルとの愛を貫くべく、彼女たちを見送ったのである。このプラトニックなラストシーンも素晴らしい。これが大人のドラマであると思う。

結局、ナレーションで、ブルーノは終戦前に戦死した旨が語られる。

久しぶりに、大人のラブストーリーの秀作に出会った気がした一本で、ミッシェル・ウィリアムスなどの名優たちの演技合戦も見事で、かなりのクオリティのある作品だったと思います。いい映画を見ました。