「十字架」
非常に丁寧に演出された作品ですが、重松清の原作に完全に溺れてしまた感じがします。ひたすら重い流れが全編を貫き、語るべき人生という人間ドラマがほとんど影を潜めてしまっている。ただ木村文乃と小出恵介の演技力がかろうじて、作品のクオリティを映像という形に止めたという感じでした。監督は五十嵐匠です。
いじめを苦に自殺したクラスメートのお葬式に向かうクラスのメンバーが歩く姿から映画が始まる。死んだフジシュンというあだ名の藤井俊介は、その遺書の中で親友として幼馴染のユウを名指しし、好きな女性としてサユという女子生徒を綴っていた。決して親友でもなかったユウとクラスメートでもなかったサユが背負わされたものを通じて、人間の心の物語を描いていく。
フジシュンがいじめられている中学時代をメインに描かれる前半が特に重苦しい。そして、後半、次第にフジシュンの死を忘れていくユウとサユの姿を描き、これが生きることなんだと語らせるラストは、ちょっとあざとすぎる。ここを映像で見せるべきだった気するのですが、全体に非常にしっかりと隙間なくストーリーが流れるので、埋もれてしまうのでしょう。
決して凡作ではないのですが、まるでいじめられて自殺したフジシュンが妙に美しいものに描かれて、裏の場面が見えない演出にこの映画の限界を見てしまいました。好みの話ではないので、特に入り込めなかった感じです。