「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「日本俠花伝」「宮本武蔵」(加藤泰監督版)

kurawan2016-11-02

「日本俠花伝」
加藤泰監督単独脚本で、後期の代表作です。とにかく、全編二時間半圧倒される情炎の世界である。一人の女が汽車の中で駆け落ちした男と本を売り、汽車賃を稼ぐ場面から映画が始まる。いかにも田舎者だが気は強い主人公峰を演じるのは若き日の真木よう子である。

この男との駆け落ちの場面が描かれる前半三分の一から、この男が実家に連れ戻され、その時の縁で知り合った港町のヤクザの親分と結婚、さらに、冒頭で出会った渡哲也扮する若者との因縁が絡んで来て、物語はどんどん主人公の女の物語へと変貌して行く。

SMまがいの拷問シーンを始め、米騒動など社会現象を描く場面、さらに、切った張ったの勧善懲悪の世界を描きながら、加藤泰の美学があちらこちらに散りばめられる。

ローアングルもここまでやるかと思われる馬車の下にぶら下げたカメラワークや、超クローズアップの人物が画面所狭しと配置される米騒動の場面、シンメトリーに配置された構図の左手隅の机に当たる明かりがすっと閉じる効果的な陰陽の演出など、見応え十分。

作品全体の出来栄えはひたすら重苦しく暑苦しいほどの迫力があるのだが、ストーリーは極めてシンプルに一本筋に流れて行く。真木よう子の体当たり演技の凄まじさに、思わずスクリーンに釘付けになってしまう。

ラスト、渡哲也と真木よう子のクローズアップのキスシーンで突然「完」と出るエンディングに開いた口が塞がらないほど打ちのめされる。

とにかく熱い、情熱がほとばしる胸焼けのするような一本でした。


宮本武蔵」(加藤泰監督版)
さすがに稲垣浩監督版、内田吐夢監督版に比べると格が落ちるものの、加藤泰監督らしい構図の美しさは堪能できる作品でした。

物語はいうまでもないもので、関ヶ原の戦いのシーンに始まり、よく知られた決闘シーンが次々と描かれて行く。クライマックスは巌流島の場面とおきまりのラストである。

巌流島のシーンが土砂降りの雨というのは初めて見たが、人間として苦悩して行く後半部分の物語がかなり端折って描かれているので、さすがに原作の味が見事に出ているとは言い難い。

さらに、静かなシーンは決まった構図で見せてくれるが、剣戟シーンはクローズアップが多用されすぎていてダイナミックスさと迫力にいまひとつかけるのは残念。

とは言っても、娯楽映画としてみればこれはこれで楽しめる作品に仕上がっているし、映画の本質は外れていない作品だと思います。面白かったしね。