「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「花つみ日記」「宗方姉妹」「張込み」

花つみ日記

「花つみ日記」
花柳界を描かせると絶品と言われる石田民三監督作品
大阪宗右衛門町にある置屋の娘を主人公に東京から転校してきた少女との友情の物語を描いていく。

当時15歳の高峰秀子がとにかく可憐で美しくかわいらしい。

ほとんどの登場人物が女性という配役で女学校を舞台に描かれるどこか切なくて不思議な魅力にあふれた作品で、1939年頃の大阪の町並みも実に情緒があって美しい。

ふとしたことで仲が悪くなった二人の少女の仲直りの物語という実にシンプルなストーリーで、映像もこれといってこったテクニックもないが、さりげなく演出される旧家の家の中をカメラがゆっくりととらえるショットや鏡に映る人物、奥行きのある構図でとらえる芸姑たちの姿などが本当に美しい。

驚くほどの名作ではないにも関わらず、今の映画のレベルを遙かに超えている画面づくり、ストーリー展開の演出のリズム、さりげなく入れる歌や音楽の感性はやはりこの当時の映画のレベルの高さを伺わせる。

女学校の校庭できれいに並んで歌を歌いながら掃除する少女たちのシーンに始まるこの作品、憧れの先生は歌の上手な先生で、転向してきた少女と主人公はふたりでこの女性教師を慕う。危ういような危険な香りがしないわけでもないが、その展開に置屋の娘という主人公の境遇が重なって映画は独特の艶やかさを生み出して行くのである。いまやこういう題材の映画をとれる人も居ないのが現実だからなおさらこの映画の値打ちが光ってくる。

少女映画と言えばその通りだが、甘酸っぱい後味が残る映画で、個人的には大好きな一本になりました。


「宗方姉妹(むなかたきょうだい)」
見終わった後、感慨に耽ることができる。小津安二郎の作品独特の読後感のような感動である。

古い意識でひたすら横暴な夫に仕える姉と現代的な感覚で恋愛を受け入れ、不倫も受け入れ、前向きに生きる妹。そんな家族野中に不思議な空間や溝が生まれてくる様が独特のタッチで描かれていきます。

小津監督の作品ほどそれぞれのシーンを事細かに評価しにくい映画はないなといつも思う。全体が見事なハーモニーで語り尽くされるからである。

確かに、独特のローアングルや、人物が存在しないショットの多用などテクニカルな面での説明はできる。原作にあるのかないのか、父と娘がウグイスのなきまねをするシーンや、妹が創作劇よろしく語るコミカルなシーン。繰り返しで見せるせりふや描写のショットなど小津監督らしい場面はたくさんあるが、そんな個々のテクニックで彼の映画は説明できない。

それぞれがそれぞれに見事にコラボレートして、一つのリズムを生み出してくる。それは一齣一齣も大切にしながら編集し演出する天才的な才能が生み出す芸術なのだと思う。

古風な姉と今風の妹、そこに姉の夫、かつての恋人が絡んでくる。父はガンらしく余命幾ばくもないらしい。たわいのない日常がいつの間にかひずみのある家庭に変わりそんなドラマが映像芸術に変わる瞬間を小津安二郎の映画を見ると体験することができるのである。

この映画も本当に良かった。後は好みか好みでないかというだけなのである。


「張込み」
松本清張原作、橋本忍脚本、野村芳太郎監督作品となれば黄金コンビである。

むせ帰るような汽車の中、東京から九州へ走る列車に乗って向かう刑事の姿に映画が始まる。そして、目的地について宿屋の二階で張り込みが始まりタイトル。

二時間近くあるがそのほとんどはこの二階からの張り込みシーン。これという抑揚のない淡々とした画面がいよいよ張り込み最終日、女が動き出し一気にクライマックスへ向かう。

映画を見せるというテクニックのうまさを堪能させられる構成の配分であり、それをものの見事に映像にした監督の手腕に拍手したい。

刑事の顔を時に極端なクローズアップでとらえ、背後に平凡に暮らす女の姿を配置する。怪しい人物も近づかず、規則正しい生活をする背景の手前では緊張感あふれる刑事の姿をとらえる。野村芳太郎らしい広くそして斜めに奥深く捉えるアングルも効果を発揮し、クライマックスでは空撮により走る車を追いかけて行く。

そしてそれまでの静がクライマックスで一気に動へ。逃げられてなるものかと追う刑事、全く気がつかず温泉宿に入る犯人と女。そして、一気に逮捕。

映画は東京へ犯人を連行する刑事二人が汽車に乗る駅のショットで締めくくられる。これが映画としての映像である。もちろん原作のすばらしさもあるのだが、映像に変換した後観客を引きつけるということのテクニックを見せてつけてくれる一本だった。

単純なミステリー以上に女のドラマや犯人のドラマ、刑事の人生が見事に描かれる奥の深いストーリー構成にうならされるみごとな秀作だったと思います