「マイブラザー 哀しみの銃弾」
監督のギヨーム・カネが自ら出演した作品を英語でリメイクした一本。二時間を超える作品で、その時間分に長さを感じてしまう映画だった。
物語のプロットが、どれもほぼ同じ尺で描かれていくために、全体のストーリーのバランスが平坦になったためだろう。
タイトルの後、三人の男たちが部屋で談笑しているシーンから始まる。
突然、そこに警官が踏み込み、その中には刑事フランクがいたが、逮捕した男はフランクの元カノの今の男。この前提が、ラストシーンまで引きずるのだが、ここから、フランクの兄クリスの話へ物語は移っていく。
12年の刑期を終えた兄クリスが出所したものの、前科ものに仕事はなく、再び犯罪に染まっていく。さらに余命幾ばくもない父の物語が絡み、兄と新しい恋人ナタリーの物語、フランクとの確執から、フランクと、元カノヴァネッサの物語が、淡々とした展開で次々と描かれていく。
このエピソードの繰り返しが、ややしつこくなってきて、だんだんと時間を感じさせられるのである。
やがて、フランクたちは町をでることにし、フランクを追う元カノの男が、駅でフランクを撃とうとする直前に、その男を見つけたクリスが撃ち殺し、警察に捕まり、去っていく弟を見送ってエンディング。
このラストシーンまで引っ張った脚本が、最大の欠点になっている一本で、もっと思い切った削除とハイテンポな展開を加えれば、ラストシーンの感動もひとしきりだったろうにと思うともったいない。
兄が捕まるきっかけも、フランクが兄を撃った銃弾の弾が発見されたことによるものなのだが、そのシーンもちょっと描写が甘くてよくない。
リメイクなのだから、思い切って切るところは切るべきだった気がするのですが、オリジナルは未公開なので、比べようもなく、全体としても、やや純長になった気がします。決して凡作ではなく、一つ一つのエピソードはしっかり演出されているのですが、全体の流れがまとまり切れていなかった気がします。
「ママはレスリング・クィーン」
もっとはじけた映画かと思ったが、意外と、ドラマ部分もしっかり描かれている。それがかえって、せっかくのクライマックスの盛り上がりを殺しているような感じのした一本だった。ただ、そこを意図したものだととらえれば、宣伝でアピールいたジャンルの映画ではないのである。
スーパーの屋上で太った女性が、今にも飛び降りようとしている。その女性を別の女性ローズがすいかをもって上っていき、それを落として、その無惨な姿を見せて救うところから映画が始まる。
ローズがこのスーパーで働くことになるが、彼女にはミカエルという男の子がいる。彼女がかつて、犯罪を起こしたことで、一緒に暮らせていない。ローズはプロレス好きのミカエルの心を引こうと、女子プロのレスラーになることを決め、知り合いの元プロレスラーのところへ。そこで、タッグチームが必要ということで、レジ仲間三人を仲間にする。
物語は彼女たちの稽古の様子よりも、実生活での夫の不倫問題や、ジムで知り合った黒人男性への恋心、子供たちとの物語が半分以上を占め、ドラマ部分の配分が大きい。だから、レスリング修行のコミカルなシーンがやや、ぼやけてしまったのが本当に残念で、クライマックスが、豹変した彼女たちがリングで大暴れするという派手なシーンなのだから、もうちょっと、途中のドラマもそのウェイトを考えるべきだったかもしれません。
ただ、ラストの試合の場面は、カメラを真上から縦横無尽に移動させた大胆なカメラワークが楽しく、大団円もしかるべき展開で幕を閉じる。よくある話とはいえ、それなりに楽しい一本でした。
ただ、はじけきらないストーリー展開は、フランスコメディとしての節度故でしょうか。その部分がちょっと物足りない映画でした。
「エスケイプ・フロム・トゥモロー」
不思議な映画だった。話題になったことが、ある意味納得のいく作品という感じ。
物語は、一組の家族がディズニーランドに遊びに行って過ごすお話であるが、いったいこれはホラーなのかSFなのかシュールな物語なのか、その区別が微妙、それが癖になるといえば癖になるのである。
最初に、これはあくまでもフィクションであるとテロップがでる。
モノクローム映像で、ディズニーランドの人気コースター、マウンテンに乗ってカメラがその線路を巡っていく。観客の歓声と次々と進む景色、と突然トンネルの天井に頭がぶつかったような音がして、物語は本編へ。
一人の男ジムがホテルのベランダで電話をしている。眼下にディズニーランドが見える。家族でバカンスにきたらしく、ここは公式ホテルである。
息子がジムを閉め出し、ジムは困って妻に電話をする。もう一人、妹サラもいる四人家族。彼らはディズニーランドへむかうモノレールに乗るが、そこでセクシーなフランス人美女の二人づれに出会い、ジムは見とれてしまい、いかがわしい妄想を浮かべる。
ディズニーランドに入っても彼女たちが気になるジムは、子供を連れ回しながら彼女たちを追いかける。ゴンドラのアトラクションでは、ジムは人形が化け物になる妄想でめまいがし、サラの面倒をみていて一人のセクシーな人妻に出会い、ホテルでベッドイン。
プールで再び見つけたフランス人美女に、また引き込まれ、気もそぞろだが、物語はそんな浮いた話ではなく、どこか不気味な空気が漂う。
非現実のように音が消える映像、逆に、大げさな水しぶきなどで、ドキッとさせるカットなどが繰り返される。娘のけがの治療で診療所に行くと、看護婦が突然猫インフルエンザの話をしたりする。
やがて、花火をみるべく、場所を移動する家族だが、夫の不審な行動にとうとう妻は切れてしまい、ジムとサラ、息子と妻の二つ行動へ。ところが、ジムはディズニーランドの丸い建物の中に引き込まれ、サラは行方不明になり、フランス人美女には奇妙な水をかぶせられと、訳も分からずクライマックス?
ホテルに何とか戻ったジムとサラ。妻たちはいない。急に苦しくなってトイレで用を足すジム。そして嘔吐すると、なんと毛玉が。どうやら猫インフルエンザ?やがて戻ってきた妻と息子。息子がトイレを開けるが、父の助けの言葉を無視。
翌朝、夫の死を知る妻、手際よく死体は片づけられ、でていく車と入れ違いに入ってきた車から、なんと別の女と一緒のジム。
何ともシュールなエンディングに、ドギマギするが、映像と音の組み合わせで、なかなかおもしろい効果を生みだし不気味な作品に仕上げている。
最後までディズニーランドとはいわないが、夢の国を舞台にしているからこそのストーリー展開も個性的で、発想がとにかくおもしろいのである。
ずば抜けた独創性とまではいわないが、ちょっとした一本だった。