「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「危険な英雄」「彼奴を逃すな」

kurawan2016-08-02

危険な英雄
見事な映画というのはこういうのを言うのでしょうね。一見社会ドラマのサスペンスの様相なのですが、それとは全く違う一線を画した傑作といえるものかもしれません。特に「第三の男」のような軽いタッチの音楽が流れる中で、緊張感あふれる誘拐ドラマが展開する様がうまい。監督は鈴木英夫です。

物語はとある二流紙の新聞社、若手の冬木記者は、たまたま左遷された同僚の後を継いで警察担当の記者になる。そこに誘拐事件が発生。スクープを急ぐ冬木は次々と、半ば違法に近い手口と強引な取材で他者をすっぱ抜いた記事を獲得していく。見ている側としては明らかに、違法なのだが、物語の論点はそこにないところが最後まで見るとわかるのです。

ライバル新聞社をすっぱ抜いて、次々とスクープを連発するが、実はそれがどんどん犯人を追い込み、最後に犯人は捕まるものの、誘拐された少年は殺されてしまう。このラストの処理が、人によっては受け入れがたいのだろうと思いますが、この辛辣な視点が背後の軽い音楽と相まっての空気が絶妙である。

抗議が来た新聞社は冬木を左遷させてエンディング。常に背後に流れる、軽いメロディが、この作品の独特の色合いを見せつけるラストシーンである。

グーッと引くカメラワークや、アップで迫る人物のカット、低い位置からの見上げるようなショットなど、多彩なカメラワークと演出、さらにかぶる音楽の妙味が、不思議なほどの個性的な娯楽作品の傑作に仕上げている。

製作年の昭和32年という世相をきっちりとおりこみ、街頭テレビや獲得した記事がすぐに広まらない若干のスローな時代色をきっちりとおりこみ、それを物語の中に生かしたストーリー構成も見事です。こういう娯楽映画の一級品がいまに受け継がれていないのが本当に残念。素晴らしい映画でした。


「彼奴を逃すな」
ヒッチコック映画を思わせるような絶妙のサスペンス映画の秀作。とにかくシンプルな話なのだが、一級品のドキドキサスペンスが途切れない。監督は鈴木英夫である。

汽車が走り抜ける場面にタイトルがかぶってオープニングニング。高架側の一軒のラジオ修理と洋裁店が物語の舞台となる。藤崎哲夫がラジオの修理をしている。妻の君子が映画のチケットをもらったからと夫を誘い、先に店を出る。そこへ、急ぎの修理が入り、哲夫が修理を始める。停電になる。入り口に不気味な男、店の中を覗く、あかりにその男の顔が浮かぶ、続いて向かいの不動産屋の男が殺される事件が翌朝発覚、哲夫が犯人を目撃したことがわかる。

この導入部が実に良い。そして証言をしたら犯人に命を狙われると関わりを避けた藤崎夫婦なのだが、刑事はこの夫婦が何かを知っていると迫る。そんな時に犯人からの脅しの手紙が入り、たまたま、犯人を乗せてしまった隣に住むタクシー運転手が同じ手口で殺される。

哲夫が犯人の人相を警察に知らせ、モンタージュ写真が新聞に載る。不気味な影が藤崎夫婦に迫ってくるのが中盤から後半。そして、刑事が見張る中、巧妙に店に入った犯人はピストルで藤崎夫婦を脅し、汽車が通る音に合わせて殺害しようとするが。時計の音が響き時間が迫る。なんとか外の刑事に知らせようとする哲夫。クライマックスの息詰まるサスペンスである。

そして、間一髪電気を消し、真っ暗にして隠れる藤崎夫婦、銃声、刑事が迫る。そして犯人は殺されてラストシーン。全くよく練られた物語だと唸ってしまいます。面白い。

音の使い方、クローズアップと動きのあるカメラワークの組み合わせの面白さ、犯人なのか違うのか、チンドン屋になって怪しい人物が近づいたりするサスペンス、じわじわと藤崎夫婦に迫る緊張感がたまりません。これが娯楽映画でしょう。本当にヒッチコックサスペンスの日本版という組み立て方に脱帽してしまう一本でした。楽しかった。